ノン インプリンティング!(3/6)


***



「スコール!スコール…!」
「……なまえ?」

スコールが11歳の時だった。
血相を抱えて自分の名前を連呼しているなまえを見つけ、スコールは体を起こした。それに気付いたのかなまえは一度ほっとした表情を見せる。

「一体どうし……っ!」

途端になまえの表情は一変して、眉間には滅多に出来ないシワが出来ている。裏庭で寝転がっていた自分のすぐ前まで来て彼女は言った。

「ちょっとそこに座りなさい」
「は?」
「いいから座りなさい」

抗議の眼差しを向けようとしたが、目が笑っていないなまえにスコールの背は思わず伸び、気が付いたら足を折り畳んで座っていた。

「スコールくん、わたし言いましたよね」

同い年の親しい友人には砕けた言葉で話す彼女だったけれど、それ以外の年上や年下には丁寧語だった。怒る時まで勿論丁寧語で、怖さが二割増し。

「授業はちゃんと出なさいって」

バツが悪そうにスコールは俯いた。
視線を合わせる場所に困り、最終的になまえの足下に行き着く。

「キスティスから聞きました。さっきの授業、あなたの姿だけ見えなかったようですけど」

少しの、間。
嫌がらせのようにスコールの横を黄色い蝶が優雅に舞っていった。

「まさか授業をサボってここで寝ていたわけではないですよね」

なんと返せばいいのだろう。
と言うか、

「なまえに関係…っ」
「何をしてたか聞いてるんです」

反論を試みたスコールだったがピシャリと遮断されてしまった。これは本格的に怒っているに違いない。謝った方がいいだろうか。

「……なまえの言う通りだ」

言いながら恐る恐る彼女を見上げると相変わらず怖い顔のまま溜め息をつかれた。
あきれられてしまったのだろうか。

「スコールは真面目だと思っていたのに」

くるりと踵を返すなまえ。
それがまるで彼女に見放されてしまったかの様な雰囲気で、酷くスコールの心を不安にする。昔から一緒にいたなまえに見放されてしまう。

「っなまえ、ちが…」

「違うんだ」そう一言弁解しようとしたスコールの言葉はなまえに寄って阻止される。そう、昔から何か彼女を怒らせると必ずされていた…

「っ……〜!」
「少しは反省しました?」

額を抑えるスコールは若干涙目だった。
悪いことをしてしまった時のお仕置きとして、幼い頃なまえはいつもサイファーたちにデコピンをしていた。勿論スコールだって何度かされた記憶はあったがそれは片手で数え切れるほど。まさかこの年になってそれを受ける日が来るとは。

「な、なん…っ」
「あなたが悪いんでしょう?」

地味に痛いデコピン。
そう言われてしまえばそれまでで、スコールは結局そのあと素直になまえに謝ったのだ。



***



と、言うように彼に取ってなまえを怒らせることは決してしてはならないことだった。

(でも確かあのあと…)

けれどなまえだって元々優しい性格。デコピンこそされたものの、確かその後額を撫でながらこう言ってきたのだ。
「で、サイファーと何があったの?」と。

スコールが授業をサボったのには一応彼なりに訳があって、朝から突っ掛かってきたサイファーの相手をしていて珍しく彼の言動が気に触ったから。勿論そんなこと言ったところで言い訳にしかなら無いのだし、スコールは更々言う気は無かったのだが。

(なまえにはすぐバレるんだよな…)

どんなにスコールが思っていることを口にしなくても、何故かなまえには感じ取られてしまう。それぐらい長い付き合いと言えばそうなのだが。

そこでふと思い出す。
「なまえは彼氏作らないの?」
なまえの友人のさっきの言葉だ。

(なまえに恋人…)

いつも自分の隣で笑っていたあのなまえが、自分ではない男の傍で笑っている。そんな光景が頭を過って思わず首を横に振る。
今は作る予定は無いと言っていたけれどそんなの宛にはならない。

(じゃあ、どうすれば…)

答えは簡単だった。

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