スプラウト(3/5)


「前が見えなかったらなまえを守ってやれない」

そう言うと素直に信じて少し困ってしまうなまえが愛しい。瞼を覆うしなやかな指先が少し躊躇うけれど、離れることはない。

「なまえにも触れられない」
「もー…」

もう一言言って見せると急に視界が開けて明るくなる。ああ、離してくれたのかと理解してなまえを見ると赤くなっていた。

「クラウドはずるい」
「は?」

伏せ目がちに頬を赤らめて言うものだから一瞬何がか本当にわからなかった。いや、今もわからないけれど。

「クラウドの目で見られると、ダメなの。わたし。」

ぎゅうっとなまえが抱き着いてくる。照れ隠しなのか俺の胸にぐりぐりと額を押し付けていて、可愛い…。小動物みたいだ。

「だからずるい!」

ずるいと言われても目は何かを見たりする為にあって、俺にとってはなまえを見る為にあるわけで。…どうしろと言うんだ。見たら駄目なのか?

「吸い込まれそうになっちゃうもん」
「それはなまえだって同じだ」

こつんと額を突いてやると不思議そうに上目で見つめてくる。ほら、それだ。それをされると俺だってどうしたらいいかわからなくなる。

「それ、」
「え?」
「その目」
「ええ?」

ぱちぱちと瞬きを繰り返すなまえ。
わかんないんだろうな。俺だって自分のどの目がいけないのかわからない。困ったようになまえが首を傾げるからもうこの話は終わりだ、とばかりに額に唇を落とした。

「クラウド、」
「なんだ?」
「こっちがいい、な?」

ちょん、と唇を指先でつつかれる。そんなことされてそんな風にお願いなんかされたら断れるだろうか。いいや、少なくとも俺は断れないな。その相手がなまえだから。





*





「よし!二手に別れて探そうぜ!」

やたらと大きな声が聞こえて目が覚めた。確かあの声はコスモス側の…
さわさわと風が草を揺らす。

「じゃあジャンケンでわかれようぜ」

もうひとつ聞こえた声も同じだ。
コスモス側の男の声。

「ほいっ、ってうわあー、またバッツと一緒かよ!」
「スコールはまたなまえとかよー」

そこでふと彼女の名前が耳に入り、今まで興味の無かった会話に耳を澄ましてみる。なまえもいたのか。

「よおぅし、バッツ、あっちまで競争だ、先に着いた方が勝ち。負けた方は荷物持ちな!」
「おい!ちょっと待てってばジタン!」

パタパタと騒がしい足音二つが消えて再び静けさを取り戻す草原。なんだったんだ?

「あいつら…騒々しいな…」
「まあ良いじゃん。それよりまたスコールと一緒だね、よろしくね」

くすりと唄うように弾んだ声がした。
心地の良い声だけれど、自分以外の男に向けられていると思うとあまり良い気はしない。

「ああ、よろしく」

前に一度剣を交えたコスモスの戦士。
そしてあいつはよくなまえの近くにいる。
それに対してもあまり良い気はしない。

「夕飯の食材集めって、どうしようか…」
「適当に森にでも入って見るか?」

森…いくら同じコスモスの戦士と言えど何があるかわからない。もしかしたらカオスの他の連中が罠でも仕掛けているかもしれない。そうなったらあいつはなまえを守れるのだろうか。傷ひとつつけずに。

「………」

気付かれないように気配を消して、木々が生い茂る森へ向かう二人の後を追った。

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