スプラウト(2/5) |
出会った瞬間何かが填まったような感覚に陥って、声を聞いたら腕を引いてみたくなったんだ。 スプラウト 「クラウド」 唄うみたいに呼ばれた自分の名に、すぐに声の主が誰なのか判断出来た。言葉通り澄んだ彼女の声は心地良いメロディの様で、お互い立場が違うのにどうしてだかその声を聞くと酷く安堵できた。 「さっきスコールと戦ってたね」 心配するように俺を爪先から頭の天辺まで見るなまえ。確かにさっき、コスモス陣営の誰かと険を交えた。けれど自分の置かれているポジションに素直に首を縦に振ることの出来ない俺はイマイチ戦う気にはなれなく、結局隙をついて姿を消したのだけれど。 「スコール、結構いつも容赦ないみたいだけど大丈夫だった?」 「ああ」 素早い動きはなかなかのものだけれど、一太刀一太刀は軽い。よっぽど弱っているか気を抜いていなければ大したことはない。 「それよりなまえ、」 さっき彼女こそあいつに絡まれていた。俺の世界でのかつての英雄に。許すことは出来ない、あいつに。 「大丈夫だよ」 「え?」 まだ何も言っていない。弾かれるようになまえを見ると花が綻ぶみたいにゆっくりと彼女が笑った。 「クラウドの言いたいことならなんでもわかるもん」 セフィロスのことでしょう? そう問われて俺はまた驚く。正に今頭で考えていたことで、言おうと思っていた事柄。彼女に人の心を読む特殊能力などあっただろうか。 「なんでわかったんだ?」 「ないしょー」 えへへ、と笑いながらなまえが背中にとん、と抱き着いてきた。笑っていた顔が見えなくなる。 「…大丈夫だったか?」 「うん。適当に逃げたから大丈夫」 あいつが関わることは何かと面倒事ばかりだ。出来れば関わりたくないし、彼女にも関わってほしくない。関わらせたくない。それはカオス側の駒としては赦されない感情。そしてきっと、コスモスの駒である彼女だって自分と一緒にいることはあまりよくないであろう。 「ねえ、クラウドは元の世界のことちゃんと覚えてる?」 「ああ、まあ少しは」 嘘だ。しっかり覚えている。というよりは思い出したという方が正しいだろう。幾度と無く繰り返されているカオスとコスモスの戦い。それももう12回目。今まで勝ってきているのは自分たちカオス。その度に彼女らコスモスの戦士たちは深い眠りと目覚めを繰り返している。彼女も、また最近目覚めたのだ。 「いいなあ…」 「なまえは覚えて無いのか?」 覚えているはずがないだろうに。敢えて聞く自分は酷い奴だろうか。確か彼女の世界は争いの無い平和な世界なんだと眠りに就く前の記憶の少しある彼女から聞いた。背中から離れたなまえが俺を引っ張って草の上に座らせようとしている。誘いを受けて俺はそのまま草の上に腰を下ろした。 「うーんなんかね、思い出せそうで思い出せない感じ」 「なんだそれ」 ふっと笑って見せると恥ずかしそうになまえが頬を膨らませた。 「笑ったあー、ひどいー」 むう、とわざわざ口で発音するものだから可笑しかった。せっかくだからと膨らんだままの頬をつついて見ると案の定怒られた。 「お触り禁止ですー」 「つついただけだろ?」 「仕返しだあ」となまえの声が聞こえたかと思うと視界が一度真っ暗になる。けれど直ぐにオレンジの光が眼について状況を理解する。なまえの手が両目を覆っているんだろう。 「これでもう見えません」 「それは困ったな」 子供みたいな彼女の行動にサワサワと落ち着かなかった胸が静けさを取り戻した。やっぱりなまえは何か自分に足りないものを補ってくれる存在のようだ。 |