体 温 潜 熱(4/6)


だんだんと焦点が合ってきて、状況を理解したレオンが自分の上に被さる形になっているなまえの頬にゆっくりと手を添える。ドキドキとなまえの胸が高鳴る。早く退かなくては、そうは思うがやっぱり射止められたように交わる瞳が逸らせない。

「あ、の…いや、これはその…」

そうなったところで自分の今の体勢を冷静に考えて、これは何か誤解されてもおかしくないのでは?と慌てて否定してみる。これは違う、熱を計っていただけで決してレオンの寝込みを襲おうとかそう言うのでは無い。

「………」
「ね、熱を…その、はか、はか…っ…」

頬に這わせられていた手が顎を撫でて引き寄せられた。少しかさついたレオンの唇が合わさる。隙間を埋めるように角度を変えて、合間の呼吸も許されない。触れている彼の唇はいつもより圧倒的に熱を孕んでいて溶けそうだった。

「んんっ…ン、ふ…」

唇の熱に気を取られているとそれ以上に焼けた舌がそろそろと侵入してきて引っ込んでいたなまえのものと絡む。けれどいつものレオンのキスと違う。何かを引き出すような情熱的なキスでなく縋るように持っていかれそうなゆっくりとしたそれだった。

「あ、ふっ……レオン…」

どれくらいそうしていただろうか。何度も何度もゆっくり口づけられて漸く唇を解放された頃にはなまえの頭もぼうっと蕩けてくる。鈍くなった思考のままレオンを見つめているとふっと彼が笑った。

「随分大胆な看病の仕方だな…」
「っ!」

その一言で蕩けていたなまえの思考が一気に凝固する。やっぱり、やっぱり勘違いされている。

「ちが、だから違うんです…!」
「俺の寝込み襲おうとしてただろ?」

くすくすと笑う彼の声が愛おしい。けれどそこは勘違いされてもらっては困るのだ。弁解せねば。慌ててこの中途半端にレオンに重なっている体勢から起き上がろうと彼の胸に手を付いた。

「わっ」

のだが、肩を掴まれて呆気なく抱き締められてしまった。今度は頬がレオンの胸板に押し付けられる。いつもより熱い。それに呼吸一つする度にいちいち胸が大きく上下している。ああやっぱりこんな口聞いているけれど彼の体は相当辛そうだ。

「気持ち良いな…」

ぎゅっと体を抱き締められてレオンの体に籠った熱すらも伝わってくる。体温の比較的低めのなまえの体が気持ち良いのだろうか。

「あっついですよね…?」

そういう事ならばわざわざ突っぱねて退くのも可哀想だ。なまえはそっと手を伸ばしてレオンの頬を撫でる。冷たいなまえの手が気持ち良いのかレオンは目を閉じてそれを受け止めた。

暫くそのまま、彼は目を閉じたままなまえを抱き締めていた。レオンは辛いとか苦しい等と簡単に吐露するタイプでは無いけれど、唇の隙間から洩れるいつもより荒い息や少しだけ涙ぐんだ瞳などからかなり辛いであろうことが一目瞭然で。

「冷やすもの持ってくる…?」

落ち着いた声で尋ねるなまえ。

「いや…いい」

短く返ってきた返事に頷く。
少し話すのも辛そうだ。出来るだけそっとしておいた方がいいのだろう。そこまで考えてそういえばちゃんと薬を飲ませなければと当初の目的を思い出すなまえ。

「レオン、そういえばお粥作ったんですけど、食べれます?」

そもそも風邪の時にアメリカでは何を食べるのが一般的なのかまでは知らない。けれど彼は日本食嫌いではなかったはずだ。少ししてからレオンは口を開いた。

「…なまえが作ったなら食べる」

相変わらず瞳は伏せられたままだったが少し子供っぽい言い方に思わずくすりと笑みが洩れた。その微かな笑い声にレオンが目を開いてなまえを不思議そうに見つめる。

「なんでも無いです。じゃあちょっとだけ起き上がれます?」

すっとレオンの腕を撫でる。
するとゆっくりなまえを抱いていた腕が離れる。レオンの腕から抜け出したなまえはベッドから起き上がるとサイドテーブルに置いていたトレーからお皿とレンゲを取ってレオンの横に付いた。

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