体 温 潜 熱(3/6)


「と、…大丈夫ですか?」

熱に浮かされてるレオンに車の運転をさせるわけにはいかず、代わりになまえが彼の車をレオンの自宅まで走らせた。レオンをベッドに座らせて車のキーをテーブルの上に置いた。

「悪いな…なまえ」

段々体調が思わしくなくなってきたのか頭を抱えて謝ってくるレオン。なまえは胸の前で両手を振ってそれに答えた。

「これくらいどうってことないですよ」

家まで戻ってくれば大分マシだろう。二、三日休めば良くなるのではないだろうか。ああ、でも医者に診てもらった方が確実だったかな。つらつらと考え込んでいるとレオンが苦しそうに咳き込んだ。

「わ、大丈夫…じゃないですよね?何か食べて薬飲んだ方がいいですよ。風邪薬あります?」

慌ててベッドまで近付いてレオンの背を擦る。そうするとサイドボックスの引き出しを指差される。そこまで行って中を確認すると確かに市販の風邪薬が申し訳程度に置いてあった。

「じゃあわたし何か作ってくるんで、着替えて横になっててください。寝てても良いですから」
「わかった、…」

レオンがゆっくり立ち上がる。着替える為にクローゼットまでよたよたと歩き出す。なんだかそんな姿が可愛くて笑みが溢れてしまう。



*



「あ、寝てる」

何か作るとは言ったものの風邪と言ったらお粥、と言う正に日本人な発想が抜けきれず結局作ったのは卵粥。勿論レオンの自宅に米が常備されているわけはなく、近くのスーパーまで買いに行った。

お粥用の土鍋なんてあるわけないので温めた厚めの皿に盛り付けて彼が横になっている寝室に戻ってきたなまえだったが目にした光景に冒頭の台詞。

「やっぱりお米買いに行ったのタイムロスだったかな…」

一度サイドテーブルにトレーを置いて少し呼吸の荒いレオンの額に手を伸ばす。朝廊下で会った時より熱が上がったんじゃないだろうか。心なしか額も汗ばんでいるしやっぱり呼吸は苦しそうだ。

「体温計無いのかな…」

確か風邪薬の入っていた場所には無かったし、あまり風邪を引いたりしなさそうなレオンのことだ。体温計なんか必要無いのだろう。基礎体温を気にする性別でもないわけだし。

「…失礼しまーす…」

となると手っ取り早いのはこの計り方。寝入っているレオンを起こさないように彼の顔の横に手を付く。反対の手で前髪を退けて顔を近付ける。

(わ、睫毛が長い…)

普段こんな間近でしっかりとレオンの顔を観察なんてしたことあるだろうか。顔を近付けることはあっても数秒しかまともに目を合わせられないのでそんなこと無いに等しい。切れ長の目を縁取るのは日本人と違ったブロンドの睫毛。

(日本人より睫毛長いんだよね)

羨ましいなんて思いつついつの間にかレオンの顔を凝視していたことに気付いてなんとなく恥ずかしくなる。目的は顔の観察じゃない。ゆっくりとなまえはレオンの額に自分の額をくっ付ける。

「ッ…」

熱い。明らかに自分より熱い。
これは8度近くある。夜になれば多分もっと上がるんだろう。こんな熱を持ちながらよく彼は警護任務に就こうなんて思えたものだ。いったいこんな風邪何処から貰ってきたんだ。

(なんか熱移されそう…)

くっ付けたままの額からあまり余るレオンの熱がじわじわと伝わってきて自分まで体が熱く、頭がぼうっとしてきそうだった。これはいけないと額を離そうとした時。

「ん…」
「!」

ふるり、とレオンの睫毛が震えて重たそうに目蓋が持ち上げられた。くすんだシアンの瞳がゆっくりなまえを映す。見慣れたとは言え間近でこの色の瞳と向き合うと少し不思議な感じがする。捕らえられたように視線を逸らせなくて、体も動かせなくて至近距離のダークシアンを只見つめていた。

「……なまえ…」

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