flower of December
12月25日 キリスト聖誕祭。
一番近くの教会は既にミサが始まっていて、辺りはほとんど人の姿は無かった。
静まり返る駅前広場。寒さに縮まりそうになる体を自分で抱き締めるようにして待っていると聞き慣れた声。
「レオン!」
いつもとは違う革のジャケット姿の彼がなんだか新鮮だった。しんとした広場と冬の冷たい空気の所為か、外にいるにも関わらずお互いの声がハッキリと響く。
「悪いな、家を出ようとしたら電話が鳴って……」
「ご両親ですか?」
言葉を発する度に白い蒸気がふわふわと吐かれる。リアは感覚の危うい両の指先を手袋越しに擦り合わせた。
「よくわかったな」
少し苦笑いしながらレオンが言った。
「クリスマスに実家に帰って来ないなんて、なんて親不孝息子なんだーって、言われたんですか?」
くすりと笑うと頭をぽんと叩かれた。
不意に動かしていた手を取られ、覆うように握られる。手袋越しだったがレオンの手は温かかった。
「なんでわかるんだ……」
不思議そうな、ばつが悪そうな、そんななんとも言えない表情でレオンはリアの腰を引き寄せた。
「そりゃあ、わかりますよ」
くすくすと笑ってみると顔をばふっとレオンの胸元に押し付けられる。冷気に晒されている革は少し冷たかった。
「クリスマス当日なんかに恋人と会ってたら、親不孝だって怒られるに決まってるじゃないですか」
「まあ……自覚はしてる」
こほん、と咳払いするレオンにリアはまた声を出して笑った。
クリスマス。
街の木や至るところにキラキラと輝くイルミネーションが飾られ、日本とは違い家族や身内と迎えるのが本場のクリスマスの過ごし方。早くに両親を亡くしているリアには生憎、毎年一緒に過ごす家族はいなかった。
知り合いや仕事仲間の家族に誘われホームパーティーに呼ばれることはあったのだが、なんとなく今年はそれも断っていて。一人しんみりと今年のクリスマスを過ごそうとしていたリア。
「笑うな。リアだってもう家族みたいなものだろ?」
そんな矢先、突然レオンから呼び出されたのだ。駅前に来てくれないか、と。
「え、家族?」
「俺と家族じゃ不満か?」
悪戯っぽくレオンが笑う。
勿論レオンだって家族と一緒にクリスマスを過ごすものだと思っていたリアは素直に驚きつつこの場にやってきたのだ。
ぱちぱちと瞬きをしてからゆっくりとレオンを見る。
「違いますよ。ちょっと、驚いて」
自分を家族と言ってくれるなんて、プロポーズまがいなレオンの言葉だったがリアは素直に嬉しかった。
「で、ご両親とのクリスマスすっぽかしてまでして誘った理由は何ですか?」
今度はリアが悪戯っぽく言う。
レオンにトン、と頬をつつかれながらリアはレオンの腕に自分の腕を絡めた。
「ああ、それなんだが」
木にくくりつけられたイルミネーションがピカピカと光っている。
「少し付き合って欲しいんだ」
「付き合う?」
そういうとレオンはリアの腰に手を置いたままエスコートするように駅構内に入って行こうとする。必然的にリアも彼に寄り添う形になって、足が動き出す。
駅のホームにもやはり人の姿は疎らで、それっきり妙に静かになってしまったレオン。特に会話は無かったけれど、なんとなくそんな時間が心地よかった。