瞬くシリウス、
胸を射止めて
胸を射止めて
『リア、その格好じゃ風邪引くよ』
『いいの!はやくお星さま見よう!』
「レオン、髪乾かさないで寝たら…」
「……」
ソファーに座ったまますやすやと寝息を立てる恋人に苦笑して、リアはそっと彼を起こさないよう毛布を掛けてやる。長期任務から久々に帰って来た我が家。リアの作った夕飯を食べてゆっくりとシャワーを浴びて、さすがに疲れたらしい。眠気の限界が訪れたレオンはソファーに凭れたまま眠ってしまっていた。
『もう、仕方ないなあ…
風邪引くからちょっとだけだよ?』
「仕方ないなあ…
流石のエージェントさんもお疲れかな」
俯いて眠る頬を少しつついてみる。
ぴくりと眉間が動くがそれはほんの一瞬だけで規則正しい寝息は聞こえたまま。リアはそんなレオンに微笑んでテレビの電源を切ろうとする。テーブルに置いてあったリモコンを手に取りテレビに向けた時、ふとその画面に映るニュース番組が気になった。
『はやく!お星さま消えちゃうよ!』
「ああ、もうそんな時期なんだ…」
夜も更けてきた時間。遅く帰宅した人向けにやっていた天気予報の中で気になる文字を見付けて思わず窓に目を向けた。
カーテンの引かれたいつもと変わらない窓。瞬きをしてから眠っているレオンを見る。
『お星さまは逃げないよ』
「見えるかな…」
今日は空気が澄んでいるらしい。
朝も昼間も空はスカッと晴れた快晴だったし、もしかしたら久しぶりに綺麗な夜空が見えるかもしれない。少しわくわくと胸が弾む。
カラカラとバルコニーに続く扉を開けて外に一歩踏み出すとひやっとした涼しい風が肌を刺した。秋とは言え夜は結構冷え込むものだ。眠っているレオンが風邪を引かない様にしっかりと扉を閉める。
『わあ、すごくきれい!』
「わ、結構見えるや」
手すりに近付いて空を仰いだ。
田舎の様に零れ落ちてきそうな星空、とまではいかないが都会にしては珍しい。煌々と輝く星が幾つか見えた。はじめは一つ、二つと一際輝いていた星しか見えていなかったが目が慣れてくると見落としてしまいそうな星の光までがぼんやりと見えてくる。
『リア、あれがオリオン座だよ。朱いベテルギウスと、隣にあるベラトリクス、その下のリゲルと…』
「あ、あったオリオン座」
思わず空に指を向ける。
点と点を線で結ぶように指でなぞる。
なんだか幼い頃もこんな風に空に見える星をなぞって喜んでいたような気がして、ふと懐かしくなった。
確か日本でだったか。まだまだ幼い頃。星の名前なんて一つもわからなくて、空に浮かぶ雲が縁日で売っている綿菓子なんだとばっかり思っていた頃。
『わああ…すっごい』
「珍しいなあ…こんなにはっきり」
吐く息はまだ白くはならなかった。
オリオン座のベテルギウスからこいぬ座のプロキオンに指を進める。そしてプロキオンからおおいぬ座のシリウスに。シリウスからベテルギウスに指を戻して、冬の大三角の出来上がり。