それは最近同じ部署に入ってきた二つ年下の女性オペレーター。勿論リアとはオペレーターとエージェントの関係なのだが、如何せんリアのオペレーションはほとんどをイヴァンが担当している。あまり彼女と接点が無いのだ。
「レディアはまた遅刻か…」
そして彼女の生活態度も。よくここに入れたものだ。聞いた話によれば父親がそこそこの市議会議員らしく、そんな感じでここに配属されたらしい。決して本人の意思でも実力でも無いらしい。けれどここにいることに代わりはない。リアだって仲良くしようと話し掛けたり努力はしている。
「すみませーん、遅れちゃいました」
午前のうちに仕上げなければならない報告書に最終確認とばかりに目を通していると気の抜けた高い声がオフィスに響いた。隣の席の彼女、レディアはふわふわと席に着く。一時間の遅刻だった。
市議会議員の娘とあってあまり上司たちも口煩くは言えないようだ。そのままレディアは何かポーチを持って再びオフィスから居なくなる。
(…化粧室かな)
ちらりとレディアの後ろ姿を横目で見てリアはため息をついた。
遅刻だけに止まらずレディアは出勤してすぐに化粧直しのために化粧室に籠る。三十分近く。髪型まで完璧に仕上げて戻ってくる頃にはみんな呆れ返っていて最早何も話さない。
(先輩として注意した方がいいよなあ)
元来真面目な性格のリア。先輩風を吹かしたいとか全然そういうわけでなく、素直にちゃんと言ってあげるべきだとは思っていた。
「何難しい顔してるんだ」
「わっ!」
Baby,don't cry!
報告書を立てて握っていると、不意に顔に影が掛かって眉間を突っつかれた。
「レオン…」
「ここにシワ寄ってる」
慌てて見上げるとレオンが笑ってこちらを見ていた。そうだ、この報告書を午前中に彼が取りに来るのだった。立ち上がってレオンに視線を合わせるリア。と言ってもかなりある身長差からリアが見上げる形になっているが。
「いえ、何でも無いです」
後輩の扱いに手を焼いているなんて彼に相談する事ではないだろう。リアは報告書を机でトントンと揃えてレオンに手渡した。レオンは一度それに目を通してまたリアに視線を向ける。
「何か悩み事か?」
訳を話さないリアを心配したらしい、少し真顔になるレオン。リアは慌てて胸の前で手を振って否定した。
「違いますよ。少し体調が優れなくて」
本当は違うけれど。
心の中でレオンに謝罪する。
「そうか、だったら…」
「あー、レオンさん!」