「セビリアは多分、リカルドに彼も脱出するように言ったと思うんです」
少し落ち着いてきたリアがレオンの腕の中でポツリと洩らした。それに気付いてレオンもリアの言葉に耳を傾ける。
「俺はリカルドの気持ち、なんとなくわかるけどな」
きっとレオンだって、リアがセビリアと同じ状況でどうすることも出来なかったらリカルドと同じ道を歩んでいた。リアへの気持ちはそれぐらい揺るぎない。
「え、レオンは駄目ですよ。わたしがもしセビリアみたいに、なっても。レオンは……」
「そうだな」
一度言葉を切ってレオンは瞳を閉じた。
「そうなったら、
何がなんでもリアを助ける」
「え……」
レオンの目がゆっくり開かれる。
射るような力強さを持ったダークシアンの瞳が真っ直ぐにリアを見つめる。
「リアを失う訳にはいかないからな」
「レオン」
リアの表情がまた少し曇ったのを見てレオンは彼女の額に唇を当てた。
「なあリア、甘えることってそんなに悪いことか?」
「え?」
今度はリアがレオンを見上げる。
質問の意図がわからずにリアはただレオンを見つめ返すだけ。
「一人立ち出来るとかそういう次元の話じゃない。仕事をこなす上で、俺の恋人でいる上で、精神的に、君は少し自立しすぎなんじゃないか?」
昔からそうだ。
肝心なことは一人で抱え込んで話そうとせず、聞かなければ答えてくれない。尋ねれば話してくれるけれど、それは少し寂しいものがある。
「どういう」
「もっと、甘えて欲しいんだ」
さらりと髪を撫でられた。
「一人で考え込む前に、俺を頼ってほしい。解決出来るか出来ないかは別としてリアを支えるくらいなら出来るだろ?」
レオンの顔が優しく笑う。
そうされると自然と少し気持ちが楽になるようで、ほんの少しだったけれど心が軽くなった。
「リアは一人で考え込ませると、全部自分の所為にして自分を責めるから」
それは図星だった。
「……二人を助けられなかったのは俺の責任でもあるんだ。リア一人の所為じゃない」
「でも、っ」
反論しようとした唇を塞がれる。
すぐにそれは離れたけれど、レオンはまだじっとリアを見つめていた。
「もう、この話はおしまいだ」
そう言われて顎を引かれて唇が重なり合う。今度は角度を変えて、何度も深く啄まれる。
「ん、れ、お……待っ」
「今日は黙って俺の言うこと聞くんだ」
甘く舌先を吸われてねっとりと絡み付いてくる舌。絡め取られて絡まって、腰がくだけそうになる。
「ふ、ぁ」
上顎を撫でられて切ない甘さが脳髄を刺激する。何も考えられなくなって、解放された頃にはただ必死にレオンに抱き着いていた。
「甘やかすよう、君の先輩に言われたからな」
そういう意味では無いだろうに。けれど蕩けたリアの思考ではそこまで頭は回らない。
「あいつも、心配してた」
「あいつ?」
「君のところの優秀なオペレーターだ」
癪だったが多分彼に言われて無かったら今日レオンはリアの家に来てなかった。彼女はいろんな人に愛されている。
「リアは、俺が守るよ」
そう呟いたレオンの声が小さくて、リアは聞き返したが彼はふっと笑うだけで答えてはくれず。腑に落ちない表情だったが何か吹っ切れたようにリアは深呼吸を一つした。
安らかに眠らせてくれるのならば、それは永遠の眠りで。
一時を眠らせてくれるのならば、それでもいい。
目が覚めてその現実を受け止める勇気が無ければ、また一時の眠りを。
*fin*