「リア?」
仕事の帰り。
リアのマンションの合鍵を使いセキュリティを抜け、彼女の部屋の前まで来て一度ドアノブに手を掛けた。するとノブはゆっくり動き、ドアが開いてしまった。
レオンはゆっくりと部屋の中を見るがただ暗いだけ。念のため警戒しながらリビングの扉を潜ると。
「っリア!何してるんだ!」
すぐにリアの元に駆け寄り、パシッとレオンが彼女の手の中にあったものを叩き落とした。蒼白い錠剤がパラパラとリビングの床に転がり蓋をしていなかったビンからも錠剤が飛び散った。
「レ、オン……?」
ゆらりとリアが顔を上げてレオンを視野に入れる。その目には光が灯っていなく、目元は赤かった。
「リア、いったい」
「だいじょうぶですよ」
くすりとリアが笑って見せた。
その表情が背筋が凍るほど美しくみえ、思わずレオンは動きを止めてリアを凝視する。
「こんな睡眠薬、100錠飲んだって死ねませんから」
そう言うと転がった錠剤を一粒一粒拾いはじめた。
「致死量幾つくらいだと思います?」
てきぱきと錠剤を拾うリア。
先程見た今にも崩れそうな瞳はなんだったのだろうか。
「ハルシオンならラットでも7.5g/kg摂取しても死なないみたいなんで、人間に換算してみると体重50kgの人が375gのハルシオンを飲んでも平気な訳です。となると0.25mg錠なら150万錠飲んでも死にませんね」
苦笑いしながら拾い終えたそれをビンに詰め、蓋をしてローテーブルの上にコトリと置いて見せた。
「ていうか、150万錠なんて飲んでる間に眠気が来て全部飲む前に眠っちゃいますよ」
あっけらかんと笑うリア。
内心で混乱するレオン。
「じゃあ、どうして」
「どうして……」
尋ねるレオンの言葉を反復してリアは表情をくしゃりと歪めた。
「どうしてでしょうね」
その痛々しい表情にレオンは胸が締め上げられる思いだった。カーテンが引かれて明かりもついていなく暗いリビングで、どうしてリアの表情が伺えたのか自分でもよくわからなかった。
「どうして、人間って生きてるんでしょうかね」
言われた瞬間、頭で繋がった。
やっぱり彼女はまだ、この間の一件に囚われたままなのだ。
「どうしてわたしは生きてるのに」
聞きたくなかった。その先を。
「どうして先輩たちは」
「リア……」
細いリアの腕を掴んだ時、いつもより更に細く感じた。躊躇い無くその腕を引いて胸に閉じ込めた。
「もう、いい」
リアの喉がひくりと鳴った。
「もう、いいから」
次いですぐに嗚咽が聞こえてきて、レオンは抱き締める腕を更に強めた。細い腰が今にも折れてしまいそうで、そして消えてしまいそうな儚さを纏ったリアの声にならない声がリビングに浸透する。
「ダスト、シュートって……」
濡れた声でリアが紡ぐ。
「どうしてそんな子供みたいなうそ、気付けなくて……っ」
最期に聞いたセビリアの言葉は、とても暖かなものだった。
「っ……れおん」
震えるリアの肩を掻き抱いて、レオンも彼らに想いを馳せた。
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