『レオン!』
レオンがリアの背を押し、桟橋を渡ろうとした時セビリアが彼を呼んだ。
《爆破まで五秒前》
出口に続く二十メートル程の桟橋をリアと二人駆ける。背後からは数十体のハンターが二人を逃がすまいと追ってくる。
《四秒前》
『なんだ!?セビリアっ!』
ハンターの腕をナイフで切り落とし桟橋の中頃で応える。
《三》
『セビリアっ!?』
しかしセビリアから返事がなく、不信に思ったレオンは慌ててもう一度呼び掛ける。リアも心配そうに駆けながらレオンを見る。
《二》
『リアのこと頼んだわよ!その子本当は人一倍甘えん坊なんだから……』
《一》
その言葉を聞いた瞬間、自然と視線が桟橋の下に向いた。そこには声の主でありリアの先輩捜査官のセビリアが瓦礫の山に足を取られて倒れており、その横でセビリアを抱き締めるリカルドの姿があった。
《爆破します》
『うそ……いやあっ!!いやあっ!!』
『よせっ!リア!君まで……っ!』
桟橋の下に体を投げ出そうとするリアをレオンは無理矢理抱き抱え、手すりから彼女の手を引き剥がしてガラスの扉に飛び込んだ。
『いやああああああーっ!!!』
ガラスの割れる音と、シェルターの爆発音、そしてリアの絶叫がレオンの耳に響き渡った。
***
状況が状況だった。
ダストシュートから脱出するだなんて嘘をどうして信じたのか。勿論レオンも後悔していた。
「ガラスに突っ込んで血だらけになりながらもリアを助けた勇敢なエージェントさんには勝てませんよ俺は」
リアを助けた、と言うよりリアと脱出した。捜査官二人の命を犠牲にして。
レオン自身はその日出会ったばかりで親しい間柄では無かったがリアにとっては配属当時からよくしてもらっていた先輩捜査官。本当にあれで良かったのか彼だってまだ不完全な気持ちのままだった。
「でも、セビリアとリカルドも、…あんたとおんなじ様な気持ちでリアを助けたんだ」
グッとイヴァンが拳を握った。
彼に取っても同じ組織の気の知れた仲間だった。
「リアを助けることも、セビリアとリカルドを助けることも出来なかった俺は口を挟めないよ」
そう言ってまた報告書に目を向けるイヴァン。シェルターを脱出してからのリアは完全に放心状態に陥っていて、何を話し掛けても返事が無かった。待機していた医療チームの質問にも空返事ばかり。
「もう二週間も無断欠勤だよ」
心配そうにイヴァンは溜め息を吐く。
あんな状態のリアをレオンも見るのははじめてで、連絡はしたのだが一言メールが返って来ただけだった。『少し一人にしてください』簡素なその一言が酷く痛々しく、レオンも遠くからリアを見守ることしか出来なかったのだ。
けれど、
「わかった。今日の帰りにリアの家に行ってみる」
いい加減レオンだって心配なのだ。報告書をイヴァンに受け渡したことを念押しして、レオンは自分の職場に戻った。
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