せっかく入れた暖かいココアもローテーブルで黙って湯気を立てている。
「最近、仕事でバタバタしててレオンとこうやってゆっくり過ごせる時間、少なかったから」
リアはちらりとレオンに視線を向けて続きを呟いた。
「久しぶりで、なんか、嬉しい」
ぎゅっと腕を絡めて抱き着くと胸に誘い込まれた。レオンの足の間に座るような形になり、再び包み込まれる。
「時期的に、忙しいからな」
「日本だと十二月の事は“師匠が走る”って書いて師走って言うんです」
くすっとレオンが笑う。
「俺も日本に詳しくなってきたな」
「親日家?」
「と言うより、リアの母国だから、の方が正しいんじゃないか?」
レオンの言葉に少し気恥ずかしくて、リアは口をつぐんだ。
ローテーブルのココアはいまだに口をつけられることなく二人並んでいる。
「レオンって、ズルい」
ばふっとレオンの胸に顔を埋める。
彼の香りが鼻腔いっぱいに広がって、とても幸せな気持ちが胸に溢れる。
「リアだって、行動がいちいち可愛くて狡いんだけどな」
こういう台詞も彼だから許されるのだろうか。リアはモゴモゴと口ごもりながら視線を逸らしたまま。
「そーゆーこと平気で言っちゃうのが狡いんです!」
むすっとレオンに背を向けて座る。
なにやらくすくすと笑う声が聞こえてきたがこの際無視だ。ローテーブルのココアのカップを漸く掴んで一口。
「じゃあ、狡いついでに」
「ひゃっ!」
背後からぎゅっと抱き締められて耳をレオンの唇がはんだ。咄嗟に洩れた声と共に、手に持ったカップを落としそうになる。
「な、んっ……やだ、ココア」
「しっかり持ってるんだな」
ふっと笑うレオンの息が耳に掛かり、耳の裏から首筋を彼の舌がなぞっていく。
びくっと肩が跳ねる度、手に持ったカップからココアが溢れないか心配だ。
「レオ……ストップ、ストップ!」
腹部にレオンの手が回っていてその場からは抜け出せない。手はカップを持つので正に手一杯で、まともに抵抗出来る口でなんとか彼の罠から脱け出そうと試みる。けれどレオンはそんなことお構い無しに首筋や項にキスを贈り、時折耳に戻って縁や耳朶を甘噛んでくる。
「っ〜……!」
「降参か?」
こくこくと必死に首を縦に振ると最後にちゅっとリップ音を立てて首にキスされ、笑いながら解放された。
「悪魔だあ……」
「冗談。神に滅されるだろ」
じろりとレオンを半ば涙目で睨むと楽しそうに笑っていて、彼の背後に悪魔の尻尾が見えたり見えなかったり。
「こんな意地悪な天使いません」
ぺしっとレオンの胸を叩く。
そのままその手を掴まれて、ぐっと引き寄せられて。再びレオンの胸に逆戻り。
「こんなに可愛いらしい天使ならいるんだけどな?」
頬を撫でる手がすっと顎を持ち上げて、軽く唇にキスが降りる。
「ほら、またそうやって……」
かあっと赤く染まるリアの頬を撫でるレオンの大きな手。
二人の気づかぬうちに背後の窓の外には天使からの贈り物か、白い花がふわりふわりと咲き出して。
「全部、本当のことだろ」
「バカレオン」
色鮮やかな街を白く染める。
幻想的に、舞い散る白い花びら。
「Merry Christmas,リア」
* fin *
2011/12/25 了