「え、ちょ、レオン。ここ……」
ふわっと少し強い風が吹き抜け、寒さが強まった。海の見えるそこは潮風が強くて、この季節には少し不向きだろうか。
日本のように重たい空気は無い。
どちらかと言えば華やかなその場所。
いつの間に買ってきたのか、彼の手には色鮮やかな花束が握られていて。
「ああ。君の両親の墓だ」
少し楽しそうにそう言うレオン。
いつの間に調べたのか、彼は迷わずに「卯月」とこの場に似つかわしい日本語で書かれた墓石の前まで進んでいく。
傍らに聳え立つ十字架には華やかな色とりどりの花が付けられていて、レオンはそっと墓標に花束を置いた。
「日本では、ここに死者の魂は宿ってるんだろ?」
すっと座り込んで伏せ目がちに「卯月」の文字をなぞるレオン。そんな彼に倣って、リアもゆっくりしゃがみ込む。
教会ではまだミサが行われているのだろう。この時期にしては人は少なかった。
「一度ちゃんと、君と来たかったんだ」
そう言うと優しい眼差しでリアを見つめるレオン。彼の言わんとしていることが何かなんとなく解って、リアもそっと微笑んだ。
「ありがとう、レオン」
「事後報告じゃ、失礼だからな」
「もうっ」とレオンの背中を叩くとふっと笑われた。立ち上がって墓標をしっかりと見つめ、まだぼんやりとしている地平線を見る。空は、見慣れたレオンの瞳より青々としていた。
*
「あー……寒かった」
「何なら一発あったまるか?」
墓参りを終え、リアの家に二人で帰ってきた彼ら。「今からでも実家に帰ったらどうだ」というリアの提案をレオンはやんわりと断り、今に至る。
「一発って何ですか一発って!神聖な日に邪なこと言わないでください」
「じゃあこれならいいだろ」
ぎゅっと前から抱き締められてレオンの温もりに包み込まれる。ジャケット越しでなく近くにレオンの体温が伝わってきて、リアもそっと彼を抱き返した。
「はじめからこうしてください」
するり、とレオンの手がリアの頬を撫でて唇に滑る。優しい瞳が彼女を写し、リアは瞼を伏せた。
「ん……」
「ここも、冷えてる」
唇をレオンの熱い舌が撫でる。
啄むように唇をつむられて、冷えていたそこはだんだんと熱を持つ。吐く息さえ熱いものに変わる頃にはすっかり頭までぼうっとしていて。
「リアを温めるにはこれが一番だな」
「バカ」
もう一度レオンにしっかりと抱き着く。
頭を撫でられて、厚い胸板に頬を寄せ、心地がよくて目を閉じたくなる。
「来年は、夫婦として迎えたいな」
「……待ってます」
くすり、とお互いに小さく笑みを溢し、触れ合うだけの軽いキスを交わした。
「お昼と、夜も食べていきます?」
「リアがいいなら」
リアは笑いながら抱き合うレオンの手を取った。
「こんなこと想定してなかったから、立派な食材はありませんけどね」
生憎とどこのスーパーもデパートも、ファーストフード店でさえ祝日のため閉まっている。家にある食材で適当にやるしかない。
「あ、でもハムはあります」
「上出来だ」
ぽんと頭を撫でられた。
next