「レオンが照れたー」
「だから、」
くすくすと笑いながら言うとむっとしたようにレオンが語気を強める。あ、まずい。と思った時には既に遅かった。
「っ!」
「煩い口は塞いでやる」
バルコニーのフェンスに腰を押し付けられて、両手も掴んで拘束されたままピッタリと合わさるように口を塞がれる。身長差から自然と顔を上向きにさせられて、またレオン越しに星が瞬いた。
「んー、んっ…うー!」
「もっと色気のある声出せないのか…」
突然パックリと口を塞がれて色気のある声なんて出せるはずない。彩るムードは満点だったけれど、苦しかったのだから仕方がない。
「ま、たまにはいいか。いつもリアには可愛い声を聞かせて…」
「ちょっとストップ!ばかスコット!」
今度はレオンがくすくすと笑っていた。
してやられた。どうしていつもこういう展開になってしまうのか。
「もう…レオンズルいよ…」
ふいっと顔を背けて後ろを向くと、そのまま抱き締められる。やっぱり彼に包まれるととても暖かい。それは認める。
「リアの前ではかっこつけたいだろ」
かっこなんかつけなくても彼は十分かっこいいと言うのに。今更何を言ってるんだ。
「レオンはっ…」
夜空を見据えたまま口を開いた時、視界の中心をキラリと流れる一筋の閃光が見えた。
「「あ」」
無意識に洩れた声が何かと重なる。数秒後、それがレオンの出した声だと気付いて彼を振り返ると。
「「流れ星?」」
また声がハモった。
ぱちぱちとお互い色の違う目を何度も瞬きして、どちらかともなくぷっと吹き出した。
「あはは!レオン、なんて顔して…」
「リアだって、間抜けな顔して…っ」
突然現れた流れ星に、二人とも願い事を言うタイミングなんか無くて。
「はー…おかしい。お願いできた?」
「呆気なさ過ぎてなにも、」
構えていた訳でもなく待っていた訳でもない。あまりに呆気なく零れた流れ星に少し申し訳無い。何がおかしいのかもうわからないけれど、星空の下一頻り二人で笑い合った。
「ほら、そろそろ中に入るぞ」
ぽん、と頭に手を置かれた。
大きなそれはゆっくり頭を撫でる。
「冷えてる」
そうしてすっと頬まで滑り降りて、肌を撫でて親指が唇に触れた。レオンの手のひらがとても暖かく感じて、自分の頬が結構冷えていたことに気付かされた。
「駄目だろ、女が体冷やしたら」
すっぽりとレオンの体に包まれて、そのままバルコニーの扉まで向かう。少し歩きにくかったけれど、レオンと離れるくらいなら我慢出来る。
「ココアでもいれるか?」
「その前に、」
ぐっと背伸びしてレオンの肩に手をついて、おそらく今日初めて自分から、
「こっちが良いな」
レオンに唇を重ねた。
驚いて瞬くシリウスはすぐに暖かく光り
閉じたバルコニーの扉の外、
蒼白く輝くシリウスの上で、
また一つ、星が流れた。
*fin*