すっと先輩エージェントが耳打ちしてくる。何が?と首を傾げてそんな彼を見つめるリア。
「リアの彼氏だろ?取られちゃうぜ」
「え?」
聞き捨てならない先輩の忠告に慌ててレオンたちの方を見る。
「パパが贔屓にしてる美味しいフランス料理の店があるんです。レオンさんにも是非食べてもらいたいなあ」
相変わらずの調子のレディア。かくいうレオンは決して彼女を邪険にはせず、適当にうまくあしらうだけ。大丈夫では?とまた先輩に小首を傾げるリア。
「ばっかだなー、あれでレオンもきっと満更でもないんだぜ?」
「ええ!?」
今度はリアがカップの液体を揺らす番だった。立ち上がったと同時に思わず声を上げてしまう。
一度オフィスが静寂に包まれてリアは肩を小さくして椅子に座り直した。
「変な声出ちゃったじゃないですか!」
「あはは、リアでもあんな声出すんだな」
小声で先輩を睨むリア。悪気無く笑う先輩エージェント。
もうこの話は忘れよう、そう思って再びディスプレイに向き合ったリアの耳に、
「悪いな、リアに用があるんだ」
落ち着いた低い声が届く。
そう言ってレディアの元を離れてこちらに向かってくるレオン。オフィスはガヤガヤと騒がしいと言うのに、何故か自分の心臓の音が響いているんじゃないかと言うほど煩く聞こえた。一歩一歩レオンが歩んでくる。
「リア」
キーボードに影が落ちて、レオンがすぐ横に来たのだとわかるとリアはわざとらしく返事をした。
「あ、れ、レオン…」
レオンがくすりと笑う。
どこか彼にも顔を合わせづらくてディスプレイを見つめたままレオンの次の言葉を待った。
「今日の夕飯…」
「ちょっと待ってください!」
てっきりレオンの落ち着いた声が聞こえるものだと思っていたリアは大きな声に驚いて思わず顔を上げた。するとそんなレオンも驚いていて、入り口から入って来た他のオペレーターも驚いて立ち止まっていた。
「レディア…?」
静寂を切ってレオンが問い掛けた。
大声を発した張本人、レディアはキッとリアを鋭い目で睨んだ。
「リア先輩のどこがいいんですか?」
「は?」
「え?」
意味がわからなくてレオン、そして突然矛先を向けられたリアは間抜けな声を漏らした。パチパチと瞬きしてレオンとリアは顔を見合わせる。
「だから、リア先輩なんかのどこがいいんですか、レオンさん?」
オフィスにキンキンと響くレディアの大声。これには上司から先輩から後輩全員が黙り込み作業の手を止めて三人を見る。すっかり時が止まってしまうオフィス内。
「レディア、落ち着け。言ってる意味が…」
「だぁから、リア先輩なんかよりあたしの方が良いじゃないですか!」
リアの口角がひくりと動いた。
レオンばかりでなくオフィス中の人間が呆気に取られて口をあんぐりと開けていた。
レディアは構わず突然の持論をレオンに展開し出す。
「リア先輩より背は高いし、髪だって綺麗だし、スタイルだって良いし、胸だって三倍くらい大きいし」
「レディア…」
遮るレオンにも構わず話を続けるレディア。オフィスにいた人間の何人かは頭を抱えていた。
「オペレーターだから危ない任務にはつかないから怪我したりしませんし、お家でご飯作って出迎えてあげられますし、絶対リア先輩より料理上手な自信ありますしい」
リアの顔に影が落ちる。
俯いて何かを堪えるように唇を噛み締めている。そんな彼女を見て慌ててレオンがまたレディアを制するが文句がタラタラに溜まっていたらしいレディアは中々口を閉じない。
「リア先輩日本人だし、結婚したら絶対小言が煩いですよ!日本人せっかちだし、陰険だし、優柔不断だし」
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