レオンの声を遮って甘ったるい間延びした声がオフィスに溶ける。声を発したのは先ほど遅刻してきたにも関わらず出社するなり化粧室に籠りに行ったレディア。甘ったるいその声にオフィスで話していた他の連中まで苦笑いしている。
「何かご用ですかあ?」
パタパタと絨毯を掛けるヒールの音。小走りでレオンの隣まで来ると彼の腕を掴んだ。
レディアはアメリカ人の女性の中でも結構身長がある。なのに更にヒールを履いているのでリアとは数十センチも差が出来ている。対するレオンとはちょうど良い感じの身長差で。
「いや、これを取りにきただけだ」
リアから受け取った報告書を持ち上げてレディアに言うレオン。残念そうな表情でレディアはレオンの腕に自分の腕を絡めた。
「えー、せっかくレオンさんに会えたのにもう戻っちゃうんですか?」
「まだ仕事中だからな」
上目で見つめてくるレディアに苦笑いして腕を外すレオン。そのまま彼はオフィスを出ていこうとする。リアはそんな様子を一瞬ちらりと見て立っていた椅子に座る。が…
「!」
レオンとレディアの方に視線を向けた一瞬、レディアがこちらを見てにやりと笑っていた。
(え?え?嫌われてる??)
どうして良いかわからず混乱する頭で、ただデスクの上にあったコーヒーカップを見つめていた。
*
「遅れちゃいましたーごめんなさーい」
その日もレディアは一時間の遅刻を経て化粧室に籠り化粧と髪型を完璧に整えオフィスに戻ってきた。
昨日の彼女の行動が理解出来ないまま、リアは午後任務に出てしまった為レディアとあの後顔は合わせていなかった。
(なんか、気まずいかも…)
隣の席がなんとなく見れない。
けれどレディアばかり気にしていてはリアだって仕事にならない。取り敢えず彼女のことは忘れて昨日の任務の報告書作りに集中することにした。
***
「あ!レオンさーん!」
甘ったるいそんな声で集中が切れる。ガタリと隣の席から立ち上がる振動がリアの方まで伝わってカップの中の茶色が波を立てた。振動源のレディアの背を視線で追えば忙しなく人が出入りしているオフィスの入り口に見知った恋人の姿。
「どうしたんですかあ?あたしに会いに来てくれたんですか?」
可愛らしく小首を傾げるレディア。長い巻き髪のブロンドが揺れる。端から見たらレディアは可愛いし、どこか憎めない性格。それにレオンの隣に立つと…
(確かにお似合いだけどさ…)
ふとそんな事を胸の内で呟いてなんだか惨めになってレオンたちから視線を外して目の前のディスプレイに集中した。けれど嫌がらせなのか単にリアの思い込みか、高めのレディアの声が耳に入ってきてしまう。
「レオンさん今日良かったら夕飯でも一緒にいかがですかあ?」
前の席のベテランエージェントがそんなレディアの声に苦笑していた。「モテる男は大変だな」なんて呟く。
「リア、いいの?」
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