Kittys fangs removed.(3/3)

「リア?」

語尾がおかしかった彼女に呼び掛ける。

「なんでも無いです」

しかし返ってきたのはさっきから変わらないつれない返事。計測器を使って空気の汚染具合を調べる彼女。任務が終わって同僚に彼女のことを聞かれたらなんと答えたらいいか。下らないことを考えていると

「きゃああああ!」
「リア!?」

リアが突然悲鳴を上げた。
彼女が悲鳴を上げたことにも驚いたがそんなことより彼女の足元だった。

「はなっ、離して……!」

通気孔のような場所から這いずるように出てきている二本の蒼白い腕。それが彼女の両足を捕らえている。

「リア!」

体勢を崩してしまいそうなリアを抱き留めて彼女の足を掴んでいる腕を蹴飛ばす。しかし思ったより力は強くてなかなか離さない。

「っや、」

そうしている間にずりずりと通気孔の中に引き込まれそうになるリア。これはまずい、リアを片手に抱いたまま俺は通気孔の中を覗き込むように銃を構えた。

「………ゥ!」
「やっぱりかっ」

パァンッと乾いた発砲音を立てて通気孔の中にいたゾンビの頭を撃ち抜いた。すぐにまた手を蹴り飛ばしてリアの足から離させる。

「リア!大丈夫」

大丈夫か、と問おうとしたが予想外の出来事に俺も驚いてしまう。ゾンビが出てきたことではなく、自分の服の裾を頼りなく掴む小さな手に。

「リア?」
「あ、ごめ、なさ……」

カタカタと震える彼女の手。
なるほど。淡々とこなす任務はともかくゾンビを相手にしたのはどうやら初めてのようだ。だから最初にあの手を目にした時一瞬だけ躊躇ったんだ。その隙をつかれて足を捕られてしまったわけだ。

「触れていいか?」

もう触っているけれど、一応恭しく確認を取る。まるでさっきまでの強気な彼女はどこへ行ったのか、必死にこくりこくりと首を揺らすリア。

「大丈夫だ。俺がついてる。急いでここを出よう」

小さな肩をそっと引き寄せて抱き締めてみると、想像以上に彼女は細かった。折れてしまうんじゃないかと心配になるほどに。
震えの収まらないリアを抱き抱えながら研究所を後にする。保管室のウイルスは多分漏れていた。すぐに上に知らせて然るべき対処をするべきだ。

外にはしっかりと防護服を見にまとった救命師たちが待機していて、念のため血液検査と除染作業だけ行って今はまたヘリの中。

「………」

行きと変わらぬ体勢で窓の外を眺めているリア。けれど今度はどこか気まずそうに。

「足は大丈夫か?」

ぴくりと彼女の肩が動いた。

「……平気です」

言葉に少し元気がない。
ピシャリと言って退けてくれるのを少し期待したがやはりと言うか無理だったようだ。

「気にするな。初めて見た奴はみんなどうしたらいいかわからなくなるさ」

俺だって未だにあいつらを撃つには躊躇うことだってある。けれどそうしていたら自分が殺られてしまう。彼らは存在してはいけない存在なのだ。

「そうじゃなくて」

珍しく会話が続けられた。
それも彼女によってだ。

「あの、……ありがとうございました」

初めて彼女と目が合った気がする。
黒目がちな大きな瞳は吸い込まれそうな漆黒の色で、少し潤んだそれは真っ直ぐに俺を映していた。

「邪魔とか、チャラチャラしたとか言っておいて、足引っ張ってしまって」

まったくだ。
俺は気に入った女性しか口説かないし決してチャラチャラしてる気はない。と言ってやりたいところだったがその気に入った女性が傷付いて落ち込むのは目に見えているので俺の胸の内に閉まっておくことにする。

「足を引っ張られたのは君の方だろ?帰ったらしっかり消毒しておいた方がいいかもな」
「……レオン」

今この時間になって彼女との初めてが多い気がする。俺の名前、ちゃんと知ってたんだな。

「手伝ってやろうか?」

薄く微笑んで彼女を見ると恥じらうような綻んだ花みたいな顔で微笑んでいた。こういうのを大和撫子って言うんだろうか。

「お願いします、レオン」

すっかり牙を抜かれてしまった愛らしい雌猫。いや、仔猫ちゃんは思ったよりも手間の掛からない品の良い猫だったようだ。

牙を抜いたのが俺ではない人ならざる者っていうのがシャクだが。

「まずはリアの好きな食べ物でも聞こうか。今夜の参考に。」

ヘリのパイロットには悪かったが、返事の前に愛する仔猫の唇を頂いた。

*fin*
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