※百合(同性愛)注意。
※夢主がラトニーク人です。




幼い頃から虫が嫌いだった。他の動物とはかけ離れたその外見に、予測できない動きに、男子が虫を持った手を近付けてきて追いかけられたトラウマもあって、人一倍虫が嫌いだった。
そんな私にとって、ラトニークはちょっとした地獄絵図のようだった。ラトニーク人はみんなが虫の特徴を有していて、太かったり細かったりする触角や、小さい目が集まってできているのだという白目も黒目もわからない目や、目玉のような模様の羽や。
失礼ながら、私はぞわわと鳥肌が立ってしまった。だと言うのに、虫すらも許容範囲内だったらしい好葉はあの人は多分カマキリで、あの人は多分オオカバマダラなどとその特徴から地球上にいる虫を当て嵌めていく。こんなに生き生きした好葉を見たのは初めてかもしれないと思った。


「あ、チキュウの方ですね!」


ラトニークでの慣れない環境での練習のあと、村を観光したり、次の戦略を練る等と各々行動するみんなと別れ、集合場所で地面の縁に座り足を宙に放り出しぶらぶら揺らしていた。
そんなとき、突然背後から明るい声がした。振り向くと思ったより近くにいたその子に驚いて、バランスを崩し落ちそうになってしまった。しかし、すんでのところで後ろにいた彼女が腕を掴んでくれて、引き上げてくれた。


「あ、ありがとう……」

「いえ、私が突然声をかけたせいですから。すみません……」


落ちかけた恐怖からだろう、声が震えた。この村はすごく大きな木の上にあるから、落ちたら死んでいたかもしれない。確かに原因は彼女にあるかもしれないが、素直に感謝した。
今度はもう少し内側に移動して、彼女と二人、三角座りで少しだけ距離を開けて隣に並んだ。


「すみません、あまり他の星の方が来ることがないので、少しはしゃいでしまいまして……」


照れたように頬を赤くした彼女は、まるで私達のように普通の女の子のようだった。
どうやら彼女はバンダと似たタイプらしく、今まで巡ってきた星のことや、地球のことをあれこれ聞いてきた。一つ一つ答える度に頬を赤くして、曰くはしゃいでしまう彼女は、何だか可愛く思えた。


「じゃあさくらさんの名前は、花の名前から頂いたのですね」

「そうよ。私の髪と同じ色で、木は大きいけど花はこれくらいの大きさで、それが暖かくなるといっぱい咲くの」

「そうなんですか! きっと、さくらさんのようにとても綺麗なんでしょうねえ」

「そんなこと、ないわよ……」


彼女の物言いに何だか照れてしまう。彼女は私と反対で素直な性格らしく、言葉を交わす度に触角がピョコピョコ動いたりして、わかりやすかった。
話題はその内、私自身のことになり、見た目のことや、普段していることを、地球人の女の子代表として答えているようだった。


「恋、ですか?」

「地球人の女の子の大体は恋に夢見てたりするのよ」

「じゃあ、さくらさんも、その恋をしているのですか?」

「え、わ、私は……」


恋、とか。幼い頃、憧れの親戚のお兄さんとかはいたけど、その人はとっくに結婚してしまったし、それが恋かと問われればすぐに頷けるものではなかった。
それ以降だって、男子のイタズラ等で子供っぽい、バカ等という印象があるせいか、あまり身近な男子に恋愛感情どころか憧れさえ抱いたことがない。
期待する表情の彼女に素直に答えられなくて、曖昧にはぐらかして、今度は反対に彼女に質問した。


「名前は、恋してないの?」


そう言えば、彼女に自己紹介されてから初めて名前を呼んだな、と思った。
彼女は触角を揺らしながら、考え込んでいるようだった。真面目な表情に、ゆらゆら揺れる触角がすごく悩んでいるのだと訴えているようで、可愛らしく思えて笑ってしまいそうになった。


「わかりません……」

「わからない?」

「チキュウ人は恋をし、結婚をし、子を成すと言いましたが、私達ラトニーク人は一人で子を成せるんです。だから、恋をしたり、結婚をしたりという過程が必要ないんです」


好きという気持ちはあるが、みんなが好きで、それは家族のようなもので。
そう続けた彼女の言葉に、安心したような、けれど落胆したような、不思議な気持ちに陥った。
やっぱり、私達は違うのだ。地球人は相手がいなければ子を成せないし、そこに至るまでの恋や結婚といった、彼女が『過程』と表現したそれらがとても大切にされる。


「恋、私もできたらいいな」


ぽつり、溢した彼女の言葉に胸が高鳴った。頬を赤くしたその表情は、まるで恋をしている女の子のようで、ぎゅうっと心臓が縮こまった気がした。思わずジャージの袖を指先で引っ張り、ぎゅっと握る。頬がとても熱かった。最初に自分で開けた距離を、縮めてしまいたくなった。

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