(男装ヒロイン)





私が彼女に初めて会った時、よくメイドを困らせていた。アースイレブンの一人として地球から出発して、本選第二戦目の試合後(確かサザナーラとの試合の後だったはず…)にこのファラムオービアスに連れてこられた。しかも、彼女の命令らしいが、どうやら彼女は私の事を男と思っていたらしい。確かに男装しているのだから、そう見えるのは当たり前だし、別にショックは受けていない。しかし、だからと言って宇宙人に男と完全に間違われるのは、正直ショックである。少しくらい疑って欲しかった…。


「違うっ!妾は別の物が良いと言ったはずじゃ!今すぐ代わりの物を…!」


ドアの向こうの部屋から彼女の声が聞こえる。明らかに不機嫌な空気の部屋に私は入った。すると当たり前だが、視線がこちらへ一気に集中する。


「お姫様がそんなに大きな声を出すものではありませんよ。」


ドアの向こうからでも声が聞こえていましたよ。と、言うと彼女はムッとした不機嫌な表情の彼女がこちらの方に歩いて来た。


「名前…」
「それに、気が短いのも大人の女性としてはまだまだ半人前ですよ」
「…し、仕方がないのじゃ…これは、」
「誰かにしてもらったことには、ちゃんとお礼を言わなければなりません。」
「………」
「貴女はこの星の女王陛下なんです。どうか皆を明日に導く人間になって下さい。」


私が笑いかけると、彼女はふてくされながらもメイドへ礼を言った。










「名前は冷静だな」


一応、人質みたいなものななんだから…と年相応の言い方で彼女は言った。確かに男と間違われて、彼女にしてみれば夫になって欲しかったのに会ってすぐに女であることをカミングアウトされれば、捕虜か人質扱いにするしか選択はないだろう。それに私がこの星にいても、アースイレブンは確実に勝ち上がってきているし、キャプテンを信頼しているからこそ落ち着いていられるのだ。


「まあ正直、人質って実感がないことも事実ですからね。」
「名前はもっと自分の立場と言うものを自覚するべきじゃ」


そうは言っても、人質らしい扱いは全く受けていない。むしろVIP対応に近い扱いを受けているあたり、何とも言えず苦笑する。彼女と私の間を隔てているモニターには、アースイレブンたちの試合映像が流れている。自分たちの星の運命がかかっている一戦とは言え、キャプテンの松風天馬はいつも通り皆を引っ張っていた。その様子を見ていると、私は何だか安心できた。この調子なら、きっとアースイレブンはこのファラムオービアスにたどり着けると確信が持てた。


「………」
「……名前、」
「はい」
「………仲間に、会いたいのか?」
「え?」


そう言った彼女の方を見ると、とても悲しそうで寂しげな表情をしていた。


「…ちょっとチームメイトたちが気になって、心配になっただけですよ」


一応私もアースイレブンのメンバーでしたから。そう言いながら、彼女の表情を見たら、笑って誤魔化すしか出来なかった。










彼女のあの悲しげな顔は、まるで小さな子供がたった一人で家で留守番をしている様な表情に見えた。それも、長い間ずっと一人ぼっちだったみたいに。実際、彼女に聞いたが、彼女の父親であるアクロウス・オビエスと言う人物は、今現在の調べでは行方不明となっているらしい。


「(孤独と言う呪いが、彼女を寂しい表情にさせている…って、言うのは簡単だけどね。)」


長い間いつ帰ってくるのか…否、恐らくもう帰って来ない人物をこうして一人で待ち続けていたのなら、彼女はずっと探していたのかも知れない。


「(ララヤ、貴女はもう一人ではない)」


自分と同じ孤独を知っている、寂しさをわかってくれる者…。そんな存在がいるなら、きっと自分の孤独は終わると信じて待ち続けていたのだろう。


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