すっかり元に戻った空に一台の車両が舞い宇宙へと飲まれていく
ファラムオービアスどころか宇宙を救った英雄・地球人達が乗る宇宙船だ。それをファラムオービアス人はそれぞれ穏やかな笑みと敬意を向けながら見送る
何も見えなくなった空を見上げる。これからがこの星の再出発。
リュゲルもいつもは細かいことは考えない主義だがファラムオービアス再生に尽力しようと意気込み、小さく拳を握りしめる
端正な意志のある表情で空を見上げるその姿はまるでドラマやアニメから飛び出してきたかのようだ
そこへ騒がしく声がかかった

「リュゲル兄リュゲル兄!」

「どうしたガンダレス」

弟のガンダレスは余韻に浸る間もないらしい。あまりいつもと変わらず大きな口を開けて口癖のように兄の名前を呼ぶ。だが、それにしては様子が変だった。随分慌てた風だ。周りも何だと首を捻る

「大変なんだって!どうしようリュゲル兄」

「落ち着けガンダレス。俺はまだ余韻に浸っていたいんだ」

「ヨイン…?」

「よかったなぁ〜とかがんばるぞ〜とか、思って空を見上げることだ」

「すっげぇ!かっけぇリュゲル兄!」

「結局何の用なのよ」

半ば呆れたヒラリから突っ込みが飛ぶ。それにガンダレスは「はえ?」とパチパチと目を瞬かせると大きな声を上げてリュゲルの肩を掴んだ

「あー!!そうなんだよ!リュゲル兄!逃げて!」

「逃げ…?ちょっガンダレス!」

「どうしたガンダレス!」

白い顔をさらに青くさせガンダレスはリュゲルをバルガの後ろに無理やり隠す。隠せるのがバルガの後ろしかなかったらしい。リュゲルはもちろんバルガもあまりのガンダレスの気迫に圧される。弟のこんな必死な姿は生まれてこの方見たことがない。流石に心配になったリュゲルはバルガの後ろから戸惑いながら質問を飛ばす

「一体どうしたんだガンダレス」

「リュゲル兄は絶対、俺が守」

「ガンダレスったらひどいんだから」

まるで鈴が鳴ったかのような、澄んだ声だった

ガンダレスの後方から聞こえてきた声を辿る

「やっほーさっきぶり」

全員の視線に声の主はのんびりと挨拶をした
黄土色に似た肌、角のない頭、イナズママークが描かれたジャージ。
ここにいる筈がない生き物
にっこりと目を細め笑う人物にそこにいた全員は悲鳴を上げた

「お、お前っ!アースイレブンじゃないか!!何でここにいるんだよ!」

ロダンが人差し指を向け叫ぶ。それは全員の代弁だった。声の主はどっからどう見ても先ほど全員で見送ったアースイレブンの一人の少女。ファラムオービアスにいる事はあり得ないはずなのだ
言われた本人は「えー?」と首をひねりまた人の良さそうな笑みを浮かべる

「人を化け物みたいに言わないでよ〜。ガンダレスもいきなり吹っ飛ばしてくるし」

「あああ当たり前だぁ!!このっ宇宙人!」

「あははっ、確かにガンダレスからみたら私が宇宙人かもっ、あそこにUFO!なんちゃって〜」

ガンダレスの的の外れた罵倒に無邪気に笑う。確かにアースイレブンと対戦した時にもどこか変なやつだとは思ってはいたが、ここまで奇妙な奴だとは思わなかった。ガンダレスの異様なビビりように先ほどの慌てた原因はこの地球人で間違いないと頷いた

「お主、まさか乗り遅れたのか?」

ララヤが心配そうにそう尋ねる。そう、もうギャラクシーノーツ号は地球へと旅立った。乗り遅れたのなら大惨事だ
しかし、そんな緊迫した雰囲気をものともせず軽く首を横に振った

「私、ファラムオービアスに永住しようかなって。ねっリュゲル」


「……………………は」


たっぷりと五秒
砂時計の砂がさらさらと下へ山を作っていく
にっこり。効果音が付きそうな程の笑顔を浮かべた彼女に星全体に響きそうな程全員が声を上げた

「は、はぁあ!?」

「何言ってんのよあんた!星と星、文化や言葉の違いだけじゃ済まされないじゃない!」

「そうじゃ!それにお主、アースイレブンにはなんと説明するつもりじゃ」

「そんな驚かなくても…」

「普通は驚くから!」

口々に言葉を浴びせる
リュゲルは頭の中がぐちゃぐちゃに混乱していた。永住?バカにも程がある。それに、どうして彼女は自分の名前を呼んだ、どうしてこっちを見つめてくる

「だってつまらないじゃない」

拗ねたように口を尖らして、一歩また一歩とリュゲルの方へと足を向ける

「私は刺激が欲しいの。海外なんかじゃダメ。だって宇宙なんてものに地球の枠組みだけじゃ太刀打ち出来ないもの!」

彼女の前にガンダレスが両手を広げて立ちはだかる。ガンダレスの肩から見えた彼女の瞳にリュゲルはさらに縮こまってバルガの後ろへと隠れた

「ねぇ、皆はどう?またアースイレブンと対戦したくない?したいよね、だってあなた達がファラムオービアス代表で最強なんだもの、あんな素敵なライバル宇宙でもいかなきゃ見つけられないよね。私もね一緒よ。刺激的でこれ以上ないくらいの理想を追い求めたいの、絶対に!妥協なんかしたくないの!地球で大人しくなんかしていたくない!」

だからね
彼女はそう呟いて瞳だけを弓なりにさせた

「リュゲルが欲しい!初めて見たときから決めてたの!リュゲルと結婚したい子どもも欲しいずっとずっーと一緒にいたいって心の底から私、リュゲルが大好き!どうしてとか野暮な事は聞かないでよ?そんなの運命に決まってるんだから」

リュゲルは開いた口が塞がらなかった
リュゲルの為だけに彼女はわざと地球へ帰らなかった。永住すると決めた。たった、たった、あの短い期間を過ごしただけだというのに
怖い。こわい。向けられた好意が恐ろしくて仕方ない。震えが止まらなくなった。こちらを見てくる瞳が、彼女の存在全てが怖くて堪らない

「…な、何を言ってるんだ君は、」

「そうだ!!お前みたいな変人にリュゲル兄はあげないんだからな!」

震える口でリュゲルが呟けばガンダレスが吠える
ガンダレスさえも彼女の「異常」さを感じ取った。余りにも非現実的すぎる。「星を捨てる」など異常だ
だが彼女はあっけらかんと口にする

「大丈夫だよ。地球に未練なんかないもの。そもそも、私がアースイレブンになったのは宇宙に行く為だけだったんだし、最後の試合だってファラム救うためだからやっただけだし、んまぁ皆と離れるのは少し寂しいけどリュゲルと一生会えなくなる方が耐えられないもの。でも流石に皆納得してくれなくて色々てこずっちゃった」

始めから彼女の天秤の地球の皿には何も乗っていないのだ。永遠に傾き続けたまま。
呆気に取られ全員が立ちすくむ。ガンダレス、バルガを押し退け彼女はリュゲルの腕を掴み前へ引きずり出す

砂が全てが落ちきる。全てをひっくり返す程の時間はもうない

「宇宙一リュゲルを愛してる」


微笑む彼女の顔は見たこともないくらい幸せそうで、酷く歪んで見えた


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