此処に来たとき凄く驚いた、今まで行った星々はどれも友好的とは言い難かったし、街を歩くだけで冷たい視線が突き刺さっていた(酷い時はサッカーバトルを挑まれたり、兎に角良い物ではない)のに、この星の人たちはとても友好的で、そんなことが一度も無い星。見たことのない虫や草木、実が生い茂っている。まるで、太古の地球を思わせるようなそんな世界だった。綺麗だとか、そんな甘い物じゃないけれど。ラトニークを案内してくれるバンダ君はとっても好奇心が旺盛だ。なんでも知りたがる、何でも。地球ではどんな挨拶をするの?と聞かれれば私は、色々あるんだよと言って一般的な挨拶を数例、教えた。でも、彼の興味はまだまだそんなもんじゃなかった。



「地球の人は、どうやって求愛するの?」
「きゅ、求愛?」
「そうだよ、求愛!」
僕ね今、とっても気に成る子がいるんだ!って鼻息を荒くして言った。だったら、早い所求婚でも何でもすればいいじゃないか、バンダ君の命だって無限どころか明日で終わるんでしょう?って言えば、いや、そうなんだけどね、って口籠った。
「んん、好きって言えばいいんだと思うよ」
てっとり早く好きだとか、愛しているだとか砂糖をざばざば口から垂れ流すような、甘ったるい言葉を口にすれば求愛に成ると思う。と言えば、じゃあ、その後はどうしたらいいの?って尋ねられた。彼が言っているのは恐らく、恋人の期間は何をするかってことだろうと思って恥ずかしい事を聞くな、と思いながらもぽつぽつ答えた。
「例えばねハグをしたり、手を繋いだり」
「ハグって?」
「抱きしめることだよ」
ふぅーん、また一つ勉強に成っちゃったなと記憶に叩き込んでいるのだろう、少し難しい顔をした後に、ニコッと笑って見せた。彼の笑みはなんだかあどけない。



「あとはね、そうだなキスをしたり」
「……んー、ちょっとよくわからない」
キスが分からないってことだろうと思って軽く説明を入れる。私だって本当はこんな説明したくない、だって恥ずかしいもの。したことないよ、そんな説明したこと。
「唇と唇をくっ付ける事かな」
へぇ、ラトニークには無い習慣だなって彼は呟いた。やはり、ラトニークの人たちはこんなことをしないらしい。そりゃ、同じ地球でも、国で若干違ってくるのだから、異星ならなおのことだろう。
「じゃあ、つがいに成るには……求婚はどうしたらいい?」
求婚なんて、私はまだ大人じゃないから現場も見たこともないし、映画やドラマを見ただけの簡単な知識に成ってしまう。よくあるのは結婚してくれって、男の人が指輪を贈るあれだ。そんな幼い子供のイメージのままでストップしているそれをそのままに伝える。
「うーん、指輪を送ったりするのかな?」
「そうなんだ!指輪なんだ!わかった、色々教えてくれて、有難う!」
とてもいい勉強に成ったよ、っていい笑顔を向けられた。目はキラキラと純粋なままだ。きっと汚れとかを知らないんだ、バンダ君は。



「地球の文化でその子は振り向くの?ラトニークでの求愛はどんな感じ?」
色々教えるのもいいけれど今度は逆に、ラトニークの恋愛事情が気に成って私は尋ねてみた。バンダ君は、ちょっと迷っていた。多分、振り向くのか、という問いに対して迷っていたのだと思う。わからないと答えた。でも、ラトニークの求愛は教えて貰った。バンダ君がやってみるねと言って、歌を口ずさみ始めた。それは地球では聞いたことも無いような、綺麗な歌声。……だけど、同時に切なげで儚い。胸が締め付けられるような痛みを伴うものだった。ああ、恋い焦がれた感情が乗せられるとこんなに素晴らしいメロディを奏でることができるのかと、私は感動に浸っていた。周りも振り返りそのまま聞き入る人がいる。中には顔を赤らめて、さっさと早歩きをして去っていく人もいる。別に私に求愛しているわけではなくて、試しにどんな感じかって聞いただけだから周りが誤解しているだけなのだが。途中でバンダ君が歌うのをやめた。やめたというか、終わったらしかった。ふぅとわざとらしいくらいに大きなため息をついたが何処か清々しい表情をしていた。
「こうやってね、想いを歌に乗せて……求愛するんだ」



「凄いね、綺麗だった!でも、ただ綺麗なだけじゃなくて、なんだか、切なかった。もう、わざわざ変わった文化で勝負しないでそのままいきなよ!」
そっちの方が勝率、上がるから!と言ったらそれじゃあ、駄目なんだ伝わらないんだとしょんぼりと目を地面に伏せた。
「なんで駄目なの?今の綺麗だったよ?もしかして、バンダ君の歌はラトニークでは下手な方なの?」
「えっとね、違う。その女の子が、ラトニーク人じゃないから、きっと求婚してもわからないと思って。でも、今さっき教えたからわかってくれたかな?」



ラトニーク人じゃないって……まさか!アースイレブンの女子か葵に惚れたのか?!こいつは大事件だと思って立ち竦んでいたら不意打ちでやられた。ぎゅうって、身動きできなくなるくらい強く抱きしめられて驚いていた所を、更に追い打ちをかけるように顔が近づいてきて子供がやるようなとびっきり幼い触れるだけのキスを一つだけ落とした。驚愕で目を見開いたままだったが、彼は悪戯に笑んだ。
「さっきの奴、名前さんに宛てたんだ!本気で歌ったんだけど、名前さんの心に届いた?はぁ〜、凄く緊張した……僕、初めて求愛したから……。えっと、……明日までに指輪を用意しておくよ。僕に残された時間はあと少しだけど、少しでも長く名前さんと過ごしたいな」
じゃあ、また!ってバンダ君は駆けて行った。ああ、だから、妙な疼痛がしたのか。と腑に落ちた所で、これからどうなるんだろうと少し不安に思った。

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