「三、ニ、一……あけおめだーみんなァアア!!!!!!」

 テレビの向こう側でワーッと騒いでいる司会者やゲスト、観客などに便乗して近藤さんが全裸でピョンピョンと飛び跳ねているのは既に毎年見慣れた光景だ。隊士全員が近藤さんに促されるように「あけおめっスー!」と真っ赤な顔で叫ぶのもまた然り。よくこんな中でやっているな自分と、毎年思うのももはや慣例行事同然。
 お妙さーん好きだー!姐さーん!と近藤さんと隊士らの合唱が始まったところで、わたしは縁側に避難する。このあと意味もなく乱闘が始まるのも、又毎年のこと。お酒やお猪口が乗った一セットを持ち、縁側に行くと既に避難したらしい土方さんと沖田さんがいた。

「あけましておめでとうございまさァ」
「今年もよろしく頼むな」
「……こちらこそ」

 避難するために、あまり飲んでいなかったらしい御二方ははっきりとした物言いでそう言うと、早速飲み出した。わたしもそこにお邪魔しようと、沖田さんの隣に腰を下ろした。

「相変わらずドンチャン騒ぎですねーあっちは」
「全くだ。朝になりゃ、イベントの警備に付かなきゃなんねーってのに」

 そう言うも、土方さんの表情はあまりにも柔らかいもので、思わず笑ってしまった。そんなわたしに気付いた沖田さんが少し眉を寄せた表情で、「飲みやすかィ?」と言って酒を手にしてきた。

「いや、わたしはまだ未成年ですし」
「んなこと言って、今楽しまねーでいつ楽しむってんでさァ?さァさァさァ」
「あ、わっ!ちょっと!」

 無理矢理お猪口を持たせられ、沖田さんはどぽどぽと酒を注いでいく。自分も未成年のくせに、アルコール度数が半端ないお酒をラッパ飲みする沖田さんはいろんな意味でだが、何とも逞しい。
 注いでもらっておいて飲まないわけにもいかないだろうと思い、飲もうとしたお酒を背後に居た誰かにひょいと奪われた。

「え、あ……山崎さん!」
「ダーメだよ未成年なのに、お酒飲んじゃ」
「いや、だって沖田さんが……」
「固ェこと言うんじゃねーよ山崎ィ。その酒、そいつの手に戻せ……副長命令だ」

 何かムチャクチャなこと言っている土方さんに視線をやると、今の今までは普通だったのに顔は既に真っ赤で、べろんべろんに酔っ払っていた。お酒に弱いのか、はたまたお酒の回りが早いのか。
 一方の山崎さんは一滴もお酒を口にしていないようで、酔った副長に少々困っている。

「固いことって……警察がそんなこと言ってたら、市民に示しが付かない、」
「よーし山崎ィ、そこに直りやがれ。俺の命令無視する奴ァ……切腹だァアア」
「えェエエ!?!?」
「良かったなァ……?年越す前に死ななくてよォ」

 勢いよく抜刀した副長は何度かしゃっくりをしながら、ゆらゆらと山崎さんの方へと進んでゆく。一方の山崎さんは顔を真っ青にして、「ギャァアア」と叫びながらやはり乱闘が始まっている近藤さんたちがいる部屋へと飛び込んでいった。酔った土方さんは手が付けられないから関わらないに越したことはない。

「珍しく沖田さんは加戦しないんですね」
「あァ……今年はそういう気分じゃないんでね」

 お猪口に注がれたお酒を飲む沖田さんはどことなく眠そうだ。彼は唯我独尊という言葉がピッタリだと思う。きっと今寝なければ、明日の警備は休むと言い出し兼ねない。
 ごしごしと目を擦る沖田さんにわたしは問い掛ける。

「沖田さん、もう寝たらどうですか?」
「んー……」
「眠いんでしょう?」
「……ん」

 とろんとした目でこちらを見やり、素直にコクンと頷く姿は可愛らしい。ドSで泣ければ今以上にモテると思うんだけどなァ。

「……って、何してんですか!」
「膝枕」
「寝るなら、部屋戻ってからにして下さい!」
「ぐぅぐぅ」

 眠いから動きたくない、と言う沖田さんはここで寝ることを決め込んだらしい。幾らお酒を飲んで体が熱いと言って、今ここで寝たら風邪を引くのは目に見えている。狸寝入りまでかます沖田さんを起こそうとしたが、どうやら本気で寝てしまったらしく小さな寝息が聞こえてきた。仕方ないので、しばらくこのままで居ることとする。
 すると、一段落したのか、刀を鞘に戻した土方さんが何食わぬ顔で戻ってきた。何ですかその頬に付いている赤い液体は。血ですか返り血ですか山崎さん大丈夫か。

「……総悟の奴ァ寝たのか」

 そんなわたしの心の叫びに気付くはずもなく、土方さんはアイマスクも付けずにわたしの膝で寝ている沖田さんを見て、そう尋ねてきた。そういえば沖田さんの寝顔まだ見てないや。

「明日早いですし、眠そうだったんで」
「……そーか」

 沖田さん同様、お猪口に注がれたお酒をグイッと飲み干す土方さんは無駄に色っぽい。何となく直視出来なくて、沖田さんに視線を落とすと、これまた綺麗な寝顔が飛び込んできて、目のやり場に困る。ていうか、睫毛長いな。

「おっ!こんなとこに居たのかァお前らぁ」
「近藤さん……ちっと飲みすぎなんじゃねーか?」
「ほんなことはねーぞトシぃ。まだ俺ァ…………お妙さん好きだー!」
「何でだよ」

 辛うじてふんどしだけを付けて、土方さんに絡んでいく近藤さんの思考回路はどうやら姉御一色のようで。まァ、相変わらずと言えば相変わらずだ。

「副長ー、鬼嫁ありましたー!」
「おし、山崎全部持って来い」
「さー飲むぞー!」
「まだ飲むんですか……?」
「何言ってんでさァ。あんたはまだ飲んでねーじゃありやせんか」
「沖田さん寝たんじゃないんですか!?」
「鬼嫁が俺を呼んでるんで、起きやした」

 なぜかアフロで有りっ丈の鬼嫁を抱えて走ってきた山崎さんに無事だったんだと思い、わたしはそばの柱に体を預ける。
 もう数時間もすれば警備に付かなきゃならない。ちゃんと朝起きられるかどうかなんて、きっとこの人たちの頭にはないんだろう。ただ今を生きて、隣にいる仲間たちと馬鹿やって、お酒を飲んで。それだけの幸せだけれど、彼らにとってはとても大切な一瞬一瞬なんだと思う。

「よーし、今日は飲み明かすぞーっ!」
「明かしたら駄目だろーよ」
「そう固ェこと言いなさんな。なァ?山崎」
「お、俺に振らないで下さいよ!」

 ふっと口元が緩む。
 思った以上に、わたしはここに依存しているみたいだ。


a happy new year!


(090101)


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