やさしくなりたいんだ


「仗助は、まだ人を殺した事がないんだ」
おれと違って、と、ぽつり呟いた億泰のまだ幼さを残す大きな瞳は、クレイジー・ダイヤモンドを見ていた。
楓色に染まる夕暮れの歩道、転んで泣いていた少女の傷付いた膝に触れると、少女は膝と仗助を交互に見て、からりと笑った。

敵を容赦なく岩や本にしてしまうような、正義感故の幼い残酷さがあるとはいえ、あいつの、仗助の元々が破壊の為には出来ていないのだ、と年上の甥は思う。

(そうか あいつは一度も自分の手で、誰かを殺したことはないのだ)
(…俺は殺した、そういえば綺麗な色の瞳をしていた、あれも以前は人間であったはずだ)


一度思い返せば頭をよぎる、なんて一瞬の出来事ではなく、脳裏に焼き付けられた敵の、仲間の冷たい姿がそこにあるかのように頭を埋め尽くす。
吐き気がするほどの残酷なフラッシュバックに頭がくらくらと揺れた。


(ディオを殺して)
(ンドゥール、アブドゥル、イギー…花京院も、死なせた)
(それだけじゃない。俺の血筋の為に、誰かが死んで、なのに俺は生きてる。)

承太郎がいなければもっと多くの人々が殺されていただろうが、それは彼には関係ない。
彼らは、俺が殺したも同然じゃないのかと、そうやって承太郎は全てを背負ってきた。


(殺したと死なせたの違いが未だに俺にはようわからん)
(それでも俺も仗助も、覚悟をした)

ふと気付くと大きな眼が、今度はこちらをじぃっと見ていた。
そうしてまた億泰は続ける。
まるで俺ではない誰かに訴えるように、その声は少し震えていた。
(やれやれ、だぜ)


「でも、あの能力を持ってたとしても、前のおれは誰かを救うことはできなかったと思う。
だからおれにはあの能力は持てないんだ…
…スタンド使いってことや、ザ・ハンドが嫌なわけじゃないんだもちろん
それでもおれは…あいつが羨ましい
だっておれ」



優 しな りい ん






(俺はお前がうらやましい。)
(お前らみたいになれただろうか、あの時あいつを守れていたのなら)

声にこそ出さなかったが数年前の自分とぴたり重なった本音に、少し呆れながらまた首を振った。




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俺はではない誰か、は形兆。
心がとても繊細な承りと億泰
学生コンビが学校帰りに偶然承りと会ったよ、の、段


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