価値観と罪の境界線


(何をするにも億劫だな、畜生め)

気にしないようにと考える程窓にざあざあとぶつかってくる雨音に神経が集中してしまう。
珍しく原稿を前にして手が進まないので雨音にうんざりした漫画家はどうにか気分転換がしたかった。

(いつまで降るんだ?
ああ億劫だなぁ、どうしたもんか。
そうだカフェにでもいくか。
今の時間ならクソッタレにもクソガキにも会うことはないだろう。
そうだそれがいいそうしよう。)


「カフェオレひとつ。」
それだけ言って奥の方の席へ隠れるように座る。
窓ガラスに雨音がぶつかる音がしたのでその席は避けた。

(雨のせいか客が少ないな
その方が僕にとっちゃ有り難いけど…)
「カフェオレで御座います」
「ああ、ありが…」
(…なんだ?あの女
客に対して随分おざなりな態度取ってくれるじゃあないか、…?
、あ)
たぶん、同級生。
たぶんというのはわざわざ記憶しておくほど親密な仲では恐らく無かったからだ。むしろ話したことなんてあったか怪しい人物までいつまでも記憶しておくほど露伴は過去に執着がなかった。
そんな訳で、たぶん。
(小学校…いや中学?
いた気がするなああんな奴)
カフェオレの湯気の向こうに見る横顔は辛うじて見覚えがあった。
(しかしなんだって僕があんな態度取られなきゃならないんだ?
挨拶こそすれあたられるような…
…ああ、そうだ思い出した、
あいついじめられてたんだっけ)
家に帰って卒業アルバムをぱらぱらと見ながらだんだん鮮明になってきた過去の映像の中の女の子はやはりあのウエイトレスで、今思い出せばあまり変わっていないように思う。
通らない声も、内股気味の歩き方も。

(ああ思い出してきた、
そうかお前ん中じゃ僕まで悪者か?
何を勘違いしてるか知らないが僕ァ興味無かったから手も口も出さなかったぜ。
…そういやクラス全体が悪いって担任は喚いたっけ。ゴミ箱まで蹴飛ばしてさ。
なんだじゃあ結局僕も悪かったってことかい、そんな怯えたような蔑むような目で睨むなよ。ああ気分転換は失敗だ。しかしカフェオレはうまかった)

雨音にまで責められてる気がしてなんだかいたたまれなくなったがそんな意識も彼女の怨念の力かと思うとなんだか笑けた。
(リアリストが聞いて呆れるぜ。)
そう思いながら自分で煎れたカフェオレ
を一口飲んだら先ほどのものより少しだけ苦かった。


(僕にだってうまいカフェオレは淹れられるんだぜ、ちくしょう)




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腑に落ちない露伴


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