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「なまえさん!」
聞きなれた声が鼓膜を震わせたと思って振り向けば、やはりというべきか後手を組んで可愛らしく微笑む影宮の姿があった。
「かーげーみーや、掃除サボっちゃ駄目でしょうが」
「ぐっ……だ、だってなまえさんが訓練してたからつい、」
一瞬だけ息を詰めて、それから少しバツの悪そうな表情をした後輩に咎めるようにでこぴんを食らわせる。痛いですとわめいた透明な声が頬を撫でた。
影宮が夜行にやって来たのは、確か私がまだ小さかった頃だ。頭領に手を引かれ、「二つ上のお前が面倒を見てやってくれ」と言われたことが鮮やかに記憶に残っている。まだ幾分か性格的に丸かった影宮の、ふわふわの金色の髪に指を通せばくすぐったそうにはにかんで安堵の色を見せたことも、鮮明に覚えている。
懐かしい。
なんとなく、ただなんとなく。特に明確な意思も持たずに、影宮の前髪を指先ですくって、かき上げてみた。な、いきなり何を……!だなんて、私の予想通りの反応を返した影宮にひとり「変わったなあ」と呟く。もう影宮は子どもではない、もちろん私だって。それを認識するってやっぱり寂しいことなんだろうな。
「なまえさんだって、」
「ん?」
「変わりましたよ」
「そう?」
大事な所で踏み留まる所は変わってないんだね、言ったら拗ねてしまいそうだから言わないけど。舞い上がった砂ぼこりに目を細める。
「……き、綺麗になりました、……と、思います」
……もう、本当、この子は分かってない。前に細波さんにも言われたと聞いたけど、お前凄く整った顔してるんだぞ。つまりはまぁ、ときめいてしまったということで。
「……影宮はもっと、よく考えてから発言するべきよ」
「考えた上での発言です。なまえさんだって、わかってる癖に」
「勘違いするかもしれないじゃん」
「むしろしてくれた方が嬉しいです」
くだらない押し問答を数回繰り返した後に静寂が訪れた。目の前で真っ直ぐ私を見つめる二つの瞳に、呼吸もままならない。反らしたいのに反らせない、どこか不思議な力を持った強い視線が貫く。
「なまえさん、俺、その……あなたみたいに強くないし、あなたみたいに優しくないけど、それでも俺はなまえさんの傍に居たいです」
影宮が、こんなに力強い顔をするなんて。影宮が、こんなに歯がゆいセリフを一息に言えるなんて。
知らなかったことばかりだ。やっぱり、私達は変わっていく。
「俺もう子供じゃないですよ」
訂正。成長するのだって、そんなに寂しいことではないのかもしれない。
大人になった私達に祝杯を。
2012/2/8
なんぞこれ
マジスランプやばい
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