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お腹一杯になった後によくある独特の眠気が襲う午後の授業中のことだ。
うつらうつら微睡んでいる私に制裁でも下すかのように、丁度右のこめかみあたりに何か異物がジャストミートでコツンとぶつかった。眠りの世界から私を引きずり出したその物体はそのまま机の上に転がる。
一体何事かとまだ覚醒しきっていない頭でそれを凝視すると、紙が小さく折り畳まれているのがわかった。
何の紙だろうコレ、開けて良いのかな。取り敢えずこの紙が飛んできた右側を向く。当然隣の席の人間が目に入……そうか。ようやく目を覚ました私の脳の中で回路が繋がった。手の中の紙切れ、口パクで「よめ」と合図する閃。頷いて紙を開く。
〈寝るなよ〉
オイオイ説教かよ。私の心の第一声がそれだったのでそのままの言葉を別のメモに書いて右に投げる。狙いが外れて紙は机に乗っかれなかった。閃が舌打ちしたけど気にしない。
再び意識がとろりと融解し始めたことに逆らうことなく身を委ねようとした……が、それは閃の巧みなコントロールのお陰で阻止された。今度は鼻に勢いよく当たったけどわざとなの?
〈話し相手になれ〉
オイオイ理不尽な。
またしてもそのまま書いて投げた。だって私の心はそう言っていた。
思いきりぶつけてやろうと思いきり投げたら思いの外飛んで別の人の机に着地しそうになったがそこは流石妖混じり。すんでのところでキャッチしてくれた。
そんなこんなで私たちの会話は恐らく2ターンくらい続いたであろう。その2ターン中全て、私の投げた紙屑はノーコンだった。
〈暇なんだよ〉
〈こっちは眠いんだけど〉
〈知ってる〉
〈むかつく〉
〈じゃあお前の眠気俺が覚ましてやるよ〉
最後の「よ」を読み終わり首を傾げた所でチャイムがなった。他のクラスメート達がぞろぞろと席を立つ中で私達だけが未だに座ったまま。なんか見つめ合ってる。反らしたいけど反らせない。閃の真剣な瞳がそれを許さなかった。
「すきだ」
驚いた。そりゃもう眠気なんか地球の裏側までフライアウェイした。今度はしっかりと声を出して紡がれた筈のその言葉すら、最初のように口パクであるかのような感覚がした。顔を赤らめるよりも目を伏せるよりもその前に、私にはすべきことがある。
〈私は大好き〉
先程のメモ用紙にその五文字を書いて閃目掛けて投げる。今度はちゃんと閃の眉間に吸い込まれる勢いで真っ直ぐ飛んでいった。紙を開いた閃と目が合うなり発した言葉は。
「ナイスキャッチ」
「ナイスコントロール」
2011/7/29
憧れる、こんな恋愛。
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