長編 | ナノ
奏に暗い過去を話させてしまってかなりの罪悪感を感じていたうえに、それからも普通に接してくるあいつを見ていると無理させているんじゃないか、とか色々悩んでしまって。
俺を含め周りは何らかの特殊な能力等を持っているので、その能力故に暗い過去を背負った人間とはザラに出会ってきた。家族からの虐待と聞くと真っ先に限が浮かぶし、限以外でも虐待を受けた奴の数はそりゃもう半端じゃない。殺され掛けた奴だっている。奏よりも遥かに酷い話も聞いてきたし、話させた罪悪感が多少なりともあった。
でも、何か今までの奴らに対する罪悪感とは少し違うというか、とにかく違和感に俺は首を傾げていた。勿論奏が一般人だから、という理由もあっただろうが、それとはまた別のもので。
そんな気持ちを抱えて奏と接してきた数日間だったが、彼女が上機嫌だったその日、突発的に思い立ったのだ。
奏を何処かに連れて行ってやろう。
出掛けることで喜ぶような奴じゃない、むしろ面倒臭がるような性格だとは分かっていた。それでも何か行動を起こさねばと思ったのはあいつへの罪滅ぼしのつもりだろうか。
どっかのケーキ馬鹿のように物で釣ろうなんて気持ちは全く無いが、やってることは同じようなもんだ。認めたくないけどな。
「あ、明日、どっか行かね?」断られても仕方ねえな、なんて軽い気持ちの反面、心の奥底では若干のパニック状態だった。どもった。どもってしまった。何やってんだあああ俺格好わりい!いや普段から自分が格好良いなんて思ってねーけど!
そんなだったから聞き返された時は更にどもってしまった。完全に挙動不審な俺とは真逆に奏は通常運転だ。多分聞き返したの無意識だな。そんで対応の仕方が悪かったかもとか考えてやがるんだろ。くっそ、なんで理解してるのに俺は必死の弁解なんてしているんだ。益々みっともない。
悶々と自虐の考えが巡るのだが、次の瞬間奏が了承したことでそんなことは何処かへ飛んで行き、また別の問題が浮上してくる。
どこ行くか決めてねえ。
ああなにやってんだ俺の考えなし!そもそも俺がこんな突発的な思い付きをろくに咀嚼せずに言動に移すとかあり得ないだろ!以下ループ。
案の定そこを尋ねられてしまって、決めてないと正直に告げれば呆れたような表情。凄く、凄く後悔した。やり直したいという気持ちもあったがそれ以上にこの話を無かったことにしたかった。
大体こいつだぞ。並みの事じゃ喜ばねえし面倒臭がりだし……充実した休日にする自信が無い。
しかしここまできて引き下がるのも不自然な気もする、ので、平静を装ってみる。悪かったな、と、拗ねたような口調になった。
それで、それでだ。問題の瞬間はその後にやってきた。半ばヤケクソで話を進めていたら、ふいに奏が目を細めたのだ。その時、俺は、
どくん。
……は?どくん?
確かに今、心臓が跳ねた。
そこを切っ掛けにこれまでの流れで何度か引っかかっていた色々な矛盾がフラッシュバックした。奏に対する罪悪感だとか、奏の上機嫌に安心した自分とか、必死に奏をどこかへ連れて行こうとした事とかその他諸々、滝のように、頭に降り掛かる。
それに加えて先程の波打った心。目を細めただけだ。今までにその顔を見たことがなかったなんてことはない。それなのに、なのに、この心境の変化は、なんだ。
なんだとは言っておきながらも俺はよくある漫画の鈍い主人公でもなんでもない。どちらかというと鋭い方だ。でも信じられなかった。罪悪感が同情に変わりでもしたか?俺達はあくまでサボり仲間だ。一緒に過ごした時間は長くない。仮に四六時中共に行動したとしても、必ずそうなると決まってはいない。
だとしたら俺は、どんだけベタなんだ。ベタ過ぎる。正直こんな単純だとは思っていなかった。もっと自分は、……
……なんでだよ。よりによって一般人に。
恐らく、いや絶対、この感情は。
2011/8/30
フラグっていうか完全な決定打になってしまってなんか気に入らないです。
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