長編 | ナノ




小さい頃の私は、元気で活発で、いつも走り回っているような子供だった。家庭も円満で、優しい両親に愛情を沢山注いで貰って生きていた。

一人っ子なのもあって、自由に生きる私を皆が笑って許してくれた。私はとても幸せだった。

だけどその幸せは、長くは続かなかった。



大好きだった父の、事故死。


その頃の私はまだ小学四年生くらいだったので詳しいことは聞かされていないが、突然父が居なくなった事実を受け入れられなかった事だけは覚えている。

「お母さん、お父さんはいつお仕事から帰って来るの?」

「……奏、お父さんはもう、ずっと帰ってこないんだよ」

「なんで?遠い所にお仕事に行ったの?」

「……お仕事じゃないよ。お父さん、死んだんだよ」


今思えば私は母に酷な質問をしていた。

「お父さんお土産何買ってきてくれるかなぁ」なんて、意気揚々と話す私にどれだけ悩まされたのだろうなんて考えたら寒気がする。

段々と気持ちが追い付いた頃にはもう、母は再婚し新しい「お父さん」が家で過ごすようになっていた。

「奏、新しいお父さんだよ」

新しい?こんな知らない人を「お父さん」と呼べというの?
ぐるぐる、ぐるぐる。父の死を漸く受け入れたばかりの私には、負担が多すぎた。
大好きだったお父さんが使っていたマグカップを知らない人が使う。大好きだったお父さんの特等席だったソファに知らない人がふんぞり返って座る。大好きだったお父さんの記憶が、生きていた証が、知らない人によって塗り替えられていく。

耐えきれなくなった私は部屋に籠って毎晩泣いた。次の日の学校で泣いてしまわないように、学校ではいつも通り振る舞えるように。



そんな毎日が続いていた、10才の冬。



それは中々帰ってこない「新しい父」を待っている時の事だった。




2011/4/3

過去編ですねー暗いです。






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