長編 | ナノ
時々閃は、私を酷く気遣うみたいに接した。それもただ単に思いやりによるものには思えないもので、むしろ腫れ物に触るように。きっと私が、彼の秘密をあえて追求しないことを知っているのだろう。だから、彼も私に踏み込まない。等価交換のようなもの。
「奏ー?」
「あっ、ごめん、何だっけ?」
「大丈夫?」
思考を巡らすことに夢中で、友達の問いかけを聞き逃してしまった。心配そうに覗き込む彼女に、大丈夫だから続けて、と返事をする。
「だーかーらー、影宮くんとそういう仲なの?」
「は?」
「だって奏と影宮くんが授業サボるタイミング一緒だし、たまに二人で話しながら教室に帰ってくるじゃん」
この年頃の女子は、一々他人の行動を良く見ているものだ。思わず感心してしまった。まったく好奇心というものはゴキブリみたいなものだと、何かの本で読んだ事がある。
「……はは、だからって何でそうなるの。サボり仲間なだけ」
「あ、そうなんだ。てっきり付き合ってるんだと思ってた。こりゃ皆に説明しとかなきゃな」
「説明?」
「奏に嫉妬してる子が居るから」
嫉妬。思わず眉間に皺が寄る。薄々予想はしていたけれど、やっぱりいるのか。その類の感情ほど厄介なものなんてないだろう。
「本当に何も無い、だから弁解よろしくね」
「はいはい。じゃ、早速行ってくるわ。でも進展あったら是非教えてねー!」
「ないって……ん、行ってら」
こうして弁解してもらえるだけ、有難いか。持つべきものは友だと胡散臭い文句が頭をよぎった。
あ、自己嫌悪の波がくる。振り払うように屋上へ足を進めた。
「はぁ……」
「ため息つくと幸せ逃げるぞ」
「うわ、閃……。噂をすれば、だね」
「噂?」
「私とアンタ、付き合ってると思われてたっぽい」
閃はわからなくもない、という顔でからりと笑った。
恋愛、か。
縁がなかった訳ではない。でもどれも何かが違っていたし、そもそも私の性格である。他人のせいで振り回されるなんてごめんだと遠ざけるうちに、いつしか傍観をするような姿勢に落ち着いてしまった。
それに、愛なんて、永遠なんて無い。いつかは崩れ去ることを、知っていた。
2011/1/21
修正 2014/2/17
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