長編 | ナノ
「夢が無いんだよ」
唐突だった。
普段は飄々としていて、味噌汁の具だとかラーメンの味だとかのしょうもない話しかしない奏なので、一瞬返答に困ってしまった。奏は構わずに続ける。
「夢っていうかまず根本的に、なんていうか…漠然と言うと、気力がない、みたいな」
「気力、ね」
病んでるとかじゃないんだけどね、付け加えた奏にやっと思考が追いつき始める。いつものように黙って、先を促した。
「なんか、んー例えばやるべきことがあるとするでしょ。普通の人は、嫌々でも最後にはちゃんとやり遂げる……でも私は、やらなきゃっていう気持ちが有るのにやらないんだよねー……はは、だめだ私」
「……ああ」
「やる気が無いんだったらやる気を出せばいいって言うけど……それが出来ないんだ、どうしても。だから自己嫌悪、んで、そんな程度の事にうじうじしてる自分が情けなくなってさぁ、余計に自己嫌悪」
「うん、」
「こんなだめなことさ、人に言えるわけないじゃん。言ってもどうにもならないし……だって自分でもう答えが見つかってんだから」
可笑しな話だよね?答えがあるのに進もうとしないの。いつもよりよく喋ったからか、奏はふぅと息をついた。それが呆れ果てるくらいどうしようもない内面の吐露であったとしても、確かに彼女はそれに悩み苦しんでいる。それが外に出た途端に塵に変わることを彼女はよく知っているらしかった。だからこそ、その想いは彼女の心に重くのしかかる。「ばーか、んなもん心がけで直すしかねーだろ」いつもの俺ならそう言っていた。けれど消え入りそうな奏のすべてが、今は沈黙と同調を求めていたのだ。そうだ、それが俺たちの関係で、二人でいる意義。傷を舐め合うために寄り添う二人だ。下手な助言や指摘なんて必要とされていない。
けれども、全て自己完結させて目を閉じている彼女に、少し、俺を頼ってほしいと思ってしまった。
2010/12/27
修正 2014/2/17
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