長編 | ナノ

彼と話す時間は苦にならない。こんなにも自然体で人と話すのは何時ぶりだろうか。
そんな風に思って初めて、自分は今まで自然体ではなかったと気付かされる。彼のようにあからさまに猫を被るのはとっくに卒業したつもりでいた。誰彼構わずに愛想を振り撒かなくなってから、どれくらい経っただろうか。必要最低限の笑顔と会話で、十分にやっていけた。そんな人付き合いの仕方が、自然体の自分であると。それでも脱力感だけはどうしたって消えないでいた。その理由を漸く突き止めたのだ。ああ、そうか、そういうことだったのか。
未だ無意識に猫を被り続ける私は、似た者同士を探していたのだ。そして、見つけたのだ。


「ありゃ、もう昼だ」
「マジかよ。俺数学だけサボるつもりだったのに」
「……私のせい?」
「そうだろ」

顔を見合わせて緩く笑う。また、心がほどけた。

「じゃ、俺購買行くわ」
「私も教室、戻ろ」

二人して立ち上がると風が煽るように吹き抜ける。目を細める影宮くんは、猫のようだと思った。猫被りの猫って。少しわらってドアノブを回す。
別れ際、特に意味もなく「じゃーね」と手を振ると、少し面食らった表情をしながらもぎこちなく振り返してくれた。


器用で不器用。この表現が、その矛盾さえ影宮閃を表していると言える程ぴったりだ。だからこそ、気を許せる。歪んだ自分だけの考えだと思っていたことが、次々と共有されていく。自分と同じくらい真っ直ぐになれない存在が、自己嫌悪を薄くしてくれた。

ただの傷の舐め合いだ。そんな歩み寄り方さえひねくれていると言われようとも、構わない。


2010/12/21
2013/5/20 修正




top

×
第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -