長編 | ナノ


耳に入ってくる転校生と教師のやり取りに言い知れない違和感を感じたのは、すぐのことだった。不自然に抑揚を付けた声と、媚びたようなテンプレートの返答。このやり方を、私はよくよく知っている。

気になってしまわない訳がないだろう。ちょうど女子の黄色い声も漸く大人しくなってきたことですし。ゆっくりと転校生を見やると、まるで計らったかのように、ほんの一瞬だけ視線がかち合った。

影宮閃。それが彼の名前だった。後ろでひとつに纏められた髪は、緩やかにウェーブのかかった金髪。白い肌、少しきつめの印象を与える眸とそれに反比例して人懐っこい笑みを貼り付けてみせる口元。華奢な体に白い肌。全体としてどこか女々しい印象。

不快感がうずまいた。眉間に深く皺の寄る感覚を私は今でも思い出せる。それほどまでに、私のあいつに対する第一印象は最悪のものだった。


自己紹介と質問攻めを終えた影宮閃は、私の対角線上、一番遠い席へと腰を下ろした。一生関わり合うことはなさそうだ。ていうか正直絶対に関わりたくない。
生温い風が髪を揺らしていた。




さて、何度でも言おう。私の生き方は怠惰の一言に尽きる。それは人間関係においてのみならず、勿論のこと学校生活にも当てはまることだ。大きな支障を来さない程度にうまくやることは、我ながら得意分野なのである。それでもこう毎日同じことを繰り返していると、ボロが出てしまうもので。

「今日が提出期限って言ったろ、藍塚」

運の悪いことに担任の授業、たまたますっぽかしたのが私だけという絶望的シチュエーション、転校生が来たばかりという理不尽なバックグラウンド、その他もろもろの悪条件が重なって生まれてしまった一言が、これだった。

「じゃあお前今日、残って転校生の学校案内しろ」

「は?」

私に茶々を入れる声、沸き上がる羨望の声、「影宮もそれでいいな?」「はい、大丈夫です」という会話がぼんやりと右から左へ抜けていく。

早々に面倒なことになってしまった。私は本当についてない。


2010/11/11
2012/9/15 書き直し





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