カンパニュラ



ふと、思えば隣にいた。

いや違うな、好きになったのはオレからだっけ。

ただ純粋に好きだった、君の、




「…お鶴チャン。お鶴チャン。お鶴チャン!」

「…何ですか?そんなに呼ばなくても聞こえてますよ」

「お鶴チャン!!」


ひょこ、と壁の向こうから顔を出した鶴之丞に、クロードは顔を輝かせて飛びついた。鶴之丞は驚きに上ずった声を上げながらもそれを慣れた手つきで受け止める。
さながら子供のようだ、と誰かに言われたこともあったな、と不意に思い出した。


「本当に、子供みたいですね、クロード」

「…甘えずに過ごすことが大人なら、オレはずっと子供でいたい」

「でも流石にこんな大きな子供は困りますよ。ほら、離れてください」

「やーだーお鶴チャンと一緒が良いー!」


鶴之丞に軽くあしらわれながらも彼の身体に貼り付いたまま剥がれないクロードに、ふう、と呆れを孕んだ溜息が一つ。


「クロード、離れてくれないと仕事ができません。離れないと切りますよ?」

「そんなことでオレが離すと思った?」

「暫くの間、僕に触らないでくださいね?」

「ゴメンナサイ」

「…良い子、です」


わしゃわしゃとクロードの金糸を撫でて遠ざかっていく鶴之丞の背中を呆けたまま見つめていた。彼の背中が見えなくなった頃、クロードははっと我に返る。何故呆けていたのか、自分でさえ理由はわからないけれど。


「…鶴チャン」


髪に残る手の感触。
ただ頭を撫でられただけだというのに、この異様なまでの安心感は一体何処から来るのだろう。彼が自分に触れる手も、投げかける視線も、声も、想いも、何もかもが温かで。


ああ、だからなのかもしれない。


何の疑いもなくオレを受け入れてくれた君だから、オレは君に惹かれたのかもしれない。
いつも自分自身の気持ちに曖昧で、確立した想いが何であるかさえわからなかったけれど、でもこの気持ちだけは、きっと嘘偽りのない気持ちなんだって、


「お鶴チャン!!」

「クロード?…う、わっ!?」



愛しい愛しい君に、これだけは伝えたい。



「ありがとう!」



心から愛せる君がいてくれたことに。



隣を見ればお鶴チャンがいる。

お鶴チャンの傍にいられることに安心と幸福を。

ただひたすらに好きでいられる、君に。


End.
15/01/20
クロードが心から伝えられることってあんまり多くはないんですよね。



[*前] | [次#]





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -