01



『ごめんなさい』
倒れた誰かの目の前で、


『ごめんなさい』
哀しい顔した誰かの前で、


『ごめんなさい』
桜が舞い散る木の下で、



誰かが泣いている夢を見るのです。
夢を見る度に、誰かが泣いているのです。でも、その誰かは分かりません。
ある時は人目を憚らずに泣きじゃくっていたり、ある時はシーツに包まって隠れるように泣いていたり、またある時は啜り泣いていたり。たくさんたくさん泣いているのです。
でも、どうして泣いているのかは分かりません。

その人に近づく前に、消えてしまうのです。
桜と一緒に、風が吹くのと一緒に、いなくなってしまって、目が覚める。
今日も、同じ夢が、


「………」


日の明けてまもない頃、目が覚める。
やっぱり今日も同じ夢だった。夢は何かの暗示だとよく聞くけれど、それが何を指し示しているのか、自分には分からない。明くる日も明くる日もよくも飽きずに同じ夢だけを見るものだ、などと感心する。
ぼやけた頭がそんなことを勝手に考えながら、体はそれを聞き流すようにのそのそと布団から起き上がる。


* * *


「………あの、」


コンコン、と何度ドアをノックをしても同室者が出て来ない。とはいえ、ここ数年、彼女が朝方に起きてきたことなど一度もないのだけれど。


「…クロデ様、ご飯が出来ました、よ…?」

「………」


ドアを薄く開けて顔を覗かせてみても、返事は無い。カーテンを閉め切った暗い部屋は静かで、寝息すら聞こえない。本当に、息をしているのか毎度のことながら心配になる。


「…あの、いつものとこに…ご飯、置いておきますよ…?」


返事は無いが、いつものこと。
彼女はクローデット。吸血鬼なのだと言う。ある時、目が覚めたら彼女が自分の目の前にいた。それから、同室者として共に暮らしている。もう数年前のこと。
彼女は多くを語らないが、自分の父親との約束なのだと言った。だからこうして、一緒に暮らすことにした、と。自分にはよく分からないけれど、自分の知らない所で色々あったのだろう。


『ルフト、神父になれ。』
有無を言わさず神学校に入れられ、神父への道を進んで、今こうして神父になった。勉強は苦では無かったけれど、正直不安でしかない。右も左も分からない所で、一体僕に何ができるのだろうか。


ああ、荷が重い…。
重い心を引きずるようにして、体は動いていく。まるで歯車のように、決められた速度でぐるぐると。

こうして、"いつもと同じ"を違えた日常が、いつもと同じ場所から始まっていく。





To be continued.
16/07/13





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