12/4 One hour Writing!!

12/04 ワンドロお題
>>『枢機卿』



「さぶい」

「いやぁ、お腹空きましたねぇ」

「さぶい」

「一気に冬になった気分だよなぁ」

「さぶい」

「お腹空きましたねぇ」

「さぶい」

「お前ら二人して同じことしか言えねぇのか!」

「さぶいもんはさぶい」


男三人が集まって無い語彙力を必死に駆使して、道端で話し込んでいる様子。さながら路傍の石である。
三人寄らば文殊の知恵、などという古語があるが、この三人が集まっても悪知恵くらいしか働かなさそうである。誠に遺憾である。
黒髪と金髪と茶髪、一見何の共通点もなさそうなこの連中、枢機卿という国のトップである。そんな三人が至極顔を突き合わせて貧相な語彙力で語るなど、いやはや誠に遺憾である。


「空腹です」

「さぶい」

「お前らほんとに同じことしか言わねぇな」

「…!」


黒髪の枢機卿――テオドール・ハインリッヒが閃いたように口を開いた。
その様子に金髪と茶髪は引き気味に後に続く言葉を待つ。


「焼き芋しましょう!焼き芋!」

「やっぱり碌でも無かったな」

「そんなことだろうと思った」

「良いじゃないですか!焼き芋!ほら、暖もとれますよ!えーと、こういうの何て言うんでしたっけ、あれ、一狩り行こうぜ?」

「一石二鳥か…?」

「そう!それです!!」

「オレ、鳥よかお前の脳天に石をぶつけてやりてぇわ」

「嫌ですよ!痛いじゃないですか!!」


脳内がお花畑だと実に平和である。こんな彼がリヴィディシウムという国の法を統べるというのだから、誠に遺憾である。


「…じゃあ、はい。イヴ。火ぃ吐け」

「バカかお前。人間にそんなことできると思ってんのか」

「わぁ!イヴくん、火吐けるんですか。何処の人です?」

「何処の人です?じゃねぇっつの!俺人間!ただの!平凡な!人間!!」


ボケ二人がいるせいで必然的にツッコミ役を押しつけられているのが翳 イヴ。力の枢機卿、主に暴徒鎮圧などを統べる者である。恐らく、枢機卿の中ではナンバーワン常識人である。


「おい、テオ。燃やすもん寄越せ」

「急に言われても…あ、燃やすには持ってこいのものが!」

「あー燃やせ燃やせー」


気怠げな様子で体育座りをしている金髪のちゃらんぽらんが、国の記録の全てを取り仕切る、記録の枢機卿――クロード・ベルゼンである。
省エネで何ともやる気のない双葉野郎である。誠に遺憾である。




「…あ゙ー、ぬくい」

「お芋美味しいですー。美味ー!」

「あっち、あちちっ、あっつ!」


焚き火を囲みながらぬくぬくと暖を取りつつ、空腹を満たすという一石二鳥なことをやらかしているアホ三人組。寒いだの空腹だのと騒いでいた輩は漸く静かになった模様。ただし語彙力が無いのは相変わらずである。こんなのが国のトップだなんて、誠に遺憾である。


「…よくもまあ、こんなに要らねぇ紙があったなぁ」

「ほんとですねー。部屋に沢山あって邪魔だったんですよー」

「お前が仕事サボるからそうなんだろ」

「は?仕事?」

「嫌ですねー。私、お腹空いたら他のことできないんですよー。仕方ないじゃないですかー」

「この芋は?」

「ああ、それはこの間、近所の畑へ芋掘りに」

「やーいこの芋泥棒ー。芋泥ー」

「止めてくださいよ、人聞きの悪い。ちゃんと持ち主の方に許可貰いましたってば」

「農家もびっくりだな。Kg単位で持って帰られるなんて思ってもみなかっただろうな…。気の毒」


本当に、呑気なものである。
頭が平和組は、どこまでいっても頭が平和である。お花畑である。誠に遺憾である。
焚き火の火種に使われた紙は、仕事で使う書類。不要である筈がないのだ。この男達は本当に、やらかしている。過剰やらかしである。


「お芋ー美味しいですー」

「卵焼き食いてぇなぁ…」

「今日晩飯何だっけな…」


「………やっと見つけましたよ、」


ところで、言い忘れていたがこの国には枢機卿が4人いる。
法と力と記録と、秩序。つまりテオドールとイヴとクロードの他にもう一人、名をジェイミー・エドキンスという。輩どもの中で最も仕事ができ、且つ割と真面目な男がいる。元々、全枢機卿の仕事を一人で請け負っていた手腕を持つ彼だが、悩みの種は尽きないようで、最近前髪が後退してきたという噂が脳内平和組を中心にちらほら。


「仕事は終わったんですよね…?」

「オレ、終わってるー」

「クロードてめぇ!いつの間に…!」

「書類?何のことです?」

「…芋焼いてるその火種のことですが?全員そこに正座」


尤も、その原因は脳内平和組が大多数なのであるが。誠に遺憾である。
ああ、今日もジェイミーの鉄拳が飛ぶ。これがまた痛い。涙が出ちゃう。だって、だってなんだもん。


いやはや、今日もリヴィディシウムの上層部は平和である。
罵声と怒声と鉄拳が飛ぶのも、もはや日常茶飯事で。こんな上層部、きっと他の神父達は知りもしないだろう。


そんな輩なんですよ、枢機卿という連中は。


End.
15/12/04
さてここで問題です。
誠に遺憾である、という言葉、何回出てきたでしょうか。






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