9/11 One hour Writing!!

9/11 ワンドロ/ワンライお題
  【秒針】【懺悔室】【燭台】
  【永遠のような一瞬】【微笑みと安らぎ】
  【過去を追い求める、愚かな腕】





悔い改めるは懺悔室。
格子窓の外側から聞こえるのは神父の声。


「悔い改めなさい、汝の罪を。悔い改めれば、神はきっと貴方をお赦しになることでしょう。」


何度も聞いた、そして何度も人に掛けた、その言葉がざらりと神経を撫で上げて耳を抜けていく。
神父の端くれ、とでも言い表そうか。神に不信を抱き、神に背を向けた自分のことを。尤も、世間では万物の父たる神に背く本末転倒な者を、そう言い表すに値しないのだろうが。むしろ、罪人と呼ぶべきなのだろう。

まあ、そんなことはどうにでも。
正直言って無関係な話だ。自分が不信心者であるかどうかなど、この際どうでも良いことなのだ。今更それを悔い改めた所で無駄なのだ。


この世界での神は、自分と同じ人間なのだから。


神と称されるのは教皇。その配下には枢機卿なる者がいて、そこに座する内の一人が自分。ああ、なんておかしい話だ。
万物創造を生したとされる神が害なだけであって、リヴィディシウムの父たる教皇は別に自分の人生に害など為さなかった。今では立派な神の部下だ。それはそれで悪くない。どうせ暇を持て余した不死の歩む道だ。記録係には相当に持って来いな人材だとほとほと感心する。


…と、過去の感傷に浸るのも悪くはないが、一体何を改めているのかと問われるのは厄介だ。何を、と突き詰められても曖昧な言葉を返すより他は無いのだが、改めて告白しなければならないことはきっと山ほどあると思う。たぶん。


「書類が山になったから、上層部で芋を焼いた」

「…は?」


目が点になったような声が降った。突然何を言い出すんだろうという疑念を孕んだ声を気にすることもなく、金色は続ける。


「この間はクライヴにちょっかい掛けて、ジェイミーに首を飛ばされて…その後、クライヴに首を縫ってもらった」

「…え、」

「その前はホラー番組を見てたクライヴを、首と体が分離した状態で脅かしに行ったら悲鳴を上げられたな。いやぁ、あれは笑えた。クライヴが泣いてビビるもんだから脅かし甲斐があった。ああ、その後は勿論クライヴが首を縫ってくれたけど」

「え、え…?」

「それから…イヴの椅子にブーブークッション仕掛けたり、テオドールに草団子と称して泥団子食わせたり…あん時、あいつ普通に食ってたな……」

「あ、あの、」


訳が分からないと口から漏れ出る相手の反応に笑いながら、言葉を続けてやれば、相手は次第に言葉を失ったようで、呆けたように口を開けたまま口を閉ざした。


「あとは、最近ジェイミーの生え際が気になったのと、上層部で回転すし屋に行ってクライヴが妙に興奮してたのと…」


もはや日々の日記を読んでいるような内容に、相手が体を震わすのが燭台の向こうに見えた。格子窓と小さな燭台で隔てただけの懺悔室に、神父が二人。陽気に喋る神父と、呆気に取られる聞く神父。何とも笑える状況だ。相手にとっては一溜まりもないのかもしれない。こんな与太話を聞かされて。それはもう溜息の一つや二つ出ることだろう。これも神父の日々の務めなのだから。教会に勤める神父というのは、中々に窮屈な思いだ。それはもう。


「イヴとテオドールと霧音が、オレとクライヴの上に布団ツムツムして遊んでたこともあったなぁ。その翌日、オレが風呂場で大コケしたけど。その後のいつぞやには天井に頭ぶつけたな」

「…あ、貴方って人は…、」


窓の向こうの神父の、わなわなと震える声を聞く限り、堪忍袋の緒がみちみちと音を立てて千切れそうな現状を察知した。否が応でも察してしまった。ああ、面白い。これだから止められない。


「ああ、あともう一つだけ言わせてよ」

「もう堪忍なりません!」


がたがたと大きな物音がする向こう側に向けて、


「どうやら君に、恋をしてしまったようだよ。神父サマ?」


相手の秒針が止まる音がした。
永遠のような一瞬の中を、ただひたすらに静寂が駆け回り、やがて言葉という名の歪みによって決壊する。


愛しているよ、


ねぇ、



「お鶴チャン」



End.
15/09/11


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