一握りの純情

鶴×♀クロ
後天性女体化。



『本日未明、起床時に発見。私クロード・ベルゼンの性別が女に変化。原因は依然不明。現在、改善案を模索中。』
報告書を書きながら、自分でも何が何やら理解ができないこの現状に溜息を吐いた。朝起きたらこうなっていたのだから、原因など知る由もないではないか。薬でも盛られたのではないかと陰謀論を唱えてしまってから、報告書を書く手が止まり、終いにはペンを投げた。
ああ、なんてめんどくさい日だ。胸が重い。


「何だっていきなり女に…」

「おや、クロード神父。体調不良ですか」


報告書なんて出しに来ずに、無理にでも脱走を図れば良かった。
粘つく嫌味な声を感じて振り返る。視線の先にはにんまり嫌味な顔をしたジェイミー・エドキンスという嫌味な男が立っていた。くそが。


「うるせぇ。今は顔も見たくねぇからとりあえず失せろ」

「つれないですね、いつもの貴方らしくない。まあ、その体でいつもの、というのは些か的外れですかね」

「一発殴らせろ、ジェイミー」

「嫌ですよ。何言ってるんですか。ほら、早く行かないと会議が始まってしまいますよ?行くのでしょう?会議に」

「…嫌だ。行かねぇ。帰って寝る」

「駄々っ子も大概にしなさい。鶴之丞神父を困らせてそんなに楽しいんですか?」

「こんな格好で行けるか!!」


嫌味と苛立ちを交錯させながら、廊下で言い知れぬ威圧感を醸し出す二人に、見かねた人から声が掛かる。


「廊下のど真ん中で殺気出して何してるんですか?」


聴き慣れた低い声。呆れを前面に押し出した、溜息にも似た声。


「お鶴チャン!」

「おや、鶴之丞神父」


ほぼ同時にそちらへ振り向く。
クロードと視線が交差して、鶴之丞の呆れに満ちた顔が、ふと色を変えたのを見逃さなかった。


「え、クロード神父、その体は…?」

「朝起きたら女の子になってた」

「本当に非現実的な話ですね」

「マジだっつってんだろ」

「えーと、起きたら女性になったって、どういうことですか?」

「オレにもわかんない」


呆気に取られている鶴之丞に、いつもの癖で抱き付こうとすれば、ジェイミーの背後に逃げられた。


「鶴チャン?」

「え、あのっ、すいません。条件反射で…」

「…ジェイミー」

「…ジェイミー先輩、そこから動かないでくださいっ」

「私を壁代わりにしないで頂きたいのですが」


ジェイミー越しに鶴之丞と押し問答をすれば、殴られた。ジェイミーに。頭を摩りながらジェイミーの顔を見上げれば口元だけが笑っている。ああ、これは怒ってらっしゃる。


「馬鹿やってないで早く会議に行きなさい、全く」

「…、…お鶴チャンのバーカ!!」

「あっ、クロード!」

「…やれやれ」




どうせ会議になど出るつもりは無かったから、都合が良かった。それに、真面目な鶴之丞のことだ。会議を欠席してまで探しには来るまい。
逃げて、清々した。あのままあそこにいては、心無い言葉を突き付けてしまいそうで。




…本当は、君を困らせたい訳じゃ、ないんだ。
この気持ちが何処から来るのかはわからない。こんな気持ちになったことなんてないから。ああ、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。また、君を、傷つけてしまう。何故、どうして、こんなにも胸が締め付けられるんだ。
こんな感情知りたくない。知らなくて良い。嫌だ。気持ち悪い。お願いだから、消えてしまって。オレの中からみんなみんな消えてよ。


でも、知っていることは確かにある。
この感情が嫉妬なんていうつまらない感情で、君がオレを拒むのはこの身体のせいだって。君に非なんてあるはずがないことは初めから知っている。ああ、なんて女々しいんだ。つまらないんだ。くだらないんだ。


「…お鶴ちゃん……」


どうしようもなく、無性に泣きたくなった。
このまま君が離れていってしまうような気がして。


「クロード!!」

「鶴ちゃん…」

「良かった…やっと、見つけた」

「会議は?」

「貴方を放っておける訳ないでしょう!!」


はぁはぁと息を切らして走って来たかと思えば怒気を含んだ声で説教をし出す鶴之丞に思わず笑みが零れた。本当に、自分の現金さが滑稽だ。


「…その、怒らせてしまって、すいません…。別に貴方が嫌いな訳ではなくて、えーっと…」

「知ってるよ、お鶴チャンが女の子苦手なことくらい。…でも、ちょっと寂しかった」

「ご、ごめんなさい…」

「…このまま元に戻らなかったら、お鶴チャンがオレから離れていくような気がして、なんか怖かった。…めんどくさいね、女の子って」

「そんなことは絶対に有り得ません。僕が貴方から離れる訳がないじゃないですか。こ、これでも…その、恋人、ですし?」

「…!お鶴チャンだいすき!!」

「…はい、僕もクロードが大好き、です!」


赤く色づく頬を見たせいか、自分の顔に熱が走る感覚。
綺麗だ。何もかもが、綺麗で、眩しい。君の隣にいて、オレは色んな事を知った気がする。


「オレね、お鶴チャンと一緒にいるのがすげー好きだから、あのね、」

「はい。分かってますよ、貴方の言わんとしていることくらい」

「お鶴チャン」

「何ですか?」


鶴之丞にそっと耳打ちすれば、赤かった頬が更に鮮やかに色づいていく。照れ隠しに怒る君が本当に愛しくて。

君に焦がれて燃え上がった気持ちはいつまで経っても勢い衰えず、むしろ日に日に増していく感情に酔い痴れてしまいそうな、感覚。




果てない激情の、裏側に、




End.
15/01/29
クロードが女体化したら子作り子作りうるさそうだなって。
あと冒頭のジェイミー神父はただのとばっちりです。



「ねぇ、鶴チャン」

「はい?」

「その、…ごめんね。お鶴チャンを信用してないとかじゃ、ないんだけど、えーと…」

「僕も、ごめんなさい。貴方を不安にさせてしまって」

「…ぷ、あは、」

「…ふ、ふふっ」

一緒に噴き出して、一緒に笑って。
ああ、今日も幸せ。縁起の良き日。





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