掌
※卒業
桜の木の下に集う旧友達よ、別れの時がやってきた。時間は重荷だ、忘れるな。共に学び共に競い共に笑った仲間達よ、どうか永遠に。
ひい、ふう、みい、よ、いつ、むう、なな、やあ、ここのつ、とお。
何度数えても、一人足りない。
満開の桜に見送られ、僕らは卒業の時を迎えた。けれど、あの子は此処にいない。教室の隅、忘れられた教科書の持ち主を僕らは知っている。皆に愛されたあの子はもう、此処にいない。
なくした言葉を吐き捨てる。また明日、と声を枯らして。返ってくるのは自分自身の低い声、あの子は知らない、変わってしまった僕らの声さえ。
それぞれの道に進んでゆく僕ら、別れに涙するのはきっと今日で最後。
想い出とはいつの時代も変わらぬ価値で僕らの中に居座ってくれる。綺麗なものばかりじゃないけれど、そこにはいつもあの子もいた。
頭巾を脱ぎ捨て、空高く放つ。風に舞う十のそれは何処かへ消えていった。
卒業証書を手に今、僕らは愛した学舎、あの子に最後の別れを告げる。
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成長一はの卒業ネタ。
「あの子」と語り手が誰なのかは、想像にお任せします。語り手「僕」って言ってるからある程度限られますが…。
「あの子」は事情があって学園をやめたのか、死んでしまったのか、どっちにしろ十一人で卒業を迎えられませんでした。
呼び方が「あの子」と幼いのは、下級生の頃に別れたから。
タイトル「掌」は十一人いた筈が今では指の数と等しい十人になり、僕一人の指でも数えられるようになってしまったという意味で。
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