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14 オレもそばにいさせて


 なまえと別れた後、さすがにびしょ濡れになった体を放置しておくわけにもいかず、本部施設にあるシャワールームで温めていたら、諏訪さんと出くわした。特に用なんてないと思っていたから挨拶して終わりだと思っていたのに、思いの外諏訪さんから「米屋テメー色男がぁ!」と意味不明に絡んできてカチューシャを取り上げられる。

「わ、やっ! ちょ、諏訪さん裸でくっつくの止めてくださいよ! キショいって!」

「うるせー! テメー前髪おろせば女の子より取り見取りだと思ってんのかコラ!?」

「なんの話っすか?」

「戦闘訓練室に来る女の子がこの間お前のことで揉めてたぜ」

「ハイ?」

 頭に過った“女の子”っていうのがなまえだったのは否定しないけど、人と揉めるような性格じゃないしすぐに違うだろうと頭を振る。肩を組んできた諏訪さんがいやらしい笑みを浮かべてるのに若干引き気味よ。

「なんか雰囲気怪しかったからこっそり部屋の音声聞いてたんだけど」

「諏訪さんそれ職権乱用ってやつ」

「バーカ、監視だ。監視!」

 高卒以上の隊員は戦闘訓練室のオペレートを任されることがある。仮想空間にトリオン兵を出したり、空間内のトリオン量調節したりとか、オレにはできないような難しいデーターワーク知識が必要とされる。あとは、諏訪さんの言うように揉め事が起きたりしないよう監視の役目もあるにはある。

「男がお前のこと弱いとかなんとか言ったら、女の子のほうが「バカにしないで」って超冷たい顔で怒っててさぁ。なにあれ。お前のファン?」

「いやいやいや、奈良坂ならわかるけどオレに女の子のマジファンとかないっしょ〜」

「男の方は明らかにお前にライバル心持ってるって感じだったけどな」

 知らぬ間に三角関係じゃねーかと盛大に笑われるが、今はそれよりも人生経験者から、拗れた関係の修復の仕方が知りたいぐらいだ。
 オレがA級なのは三輪と仲が良いからなだけだとか、三輪隊は城戸さんに気に入られてるからだとか、ご丁寧な御託が並ぶ。そういう嫉妬は周囲からないわけではない。でも、実力の伴わないA級なんていないんだよ、これが。
 そんなことはどうでもよくて、オレが気になるのは

「女のほうは、どんなやつなの?」

「それがレイガスト使う珍しいやつなんだけど。割かし筋は良いのにたしかバカみたいにポイント低かったなあ。東さんとも仲良いみたいだったな。個人戦やりまくってるお前でも弱ぇやつの事は知るわけねぇか。可愛い子なんだけどな」

 そんなのって思い当たるの一人しかいねーじゃん。

 寺島さんはもう隊員から外れてるし、鋼さんは筋が良いどころかポイントも高い。ただでさえレイガストなんて使いにくい武器を選ぶ物好きは片手で数えられるほど少ない。可愛い子ってだけでもあいつ以外思い当たんねーのに。東さんとも仲良いとか。通りで最後に電話で話した時にやたら「東さん東さん」言ってたはずだよな。

「米屋くんは弱くない! って言い張ってたなー」

「…………ちょっと諏訪さんマジ勘弁して」

「お? うっわ、珍しッ! 米屋、お前赤面とかできるんだな!」

 いやほんと、こういうのキャラじゃねーから。マジで。んなこと他人から聞かされて、どんな顔すりゃいーの?





 オレの中で決まりがある。

「よー、奇遇じゃん」

 背を預けていた壁から離れて男の前に立つ。昇降口ぶりの再会。諏訪さんに絡まれたシャワールームで、バカみたいに茹だった体もすっかり冷めていた。

「なんの用だよ」

「個人戦のお誘い〜。あ、それとも仮想空間使ってどっちが多くトリオン兵倒せるか勝負しようぜ」

「はぁ? A級様が俺みたいな雑魚に何言ってんだか」

「……雑魚、ねぇ。ぶっちゃけオレもそう思ってたんだけどさ。オレはオレがバカにされんのは別にどーでも良いけど、三輪隊ってなると話が違うんだよなー」

 オレは三輪隊がバカにされた時だけは、絶許って決めてんの。バカにするってことは最低でもオレよりは強いんだよな? っていう確認作業がしたいだけ。強いならバカにされてもしかたねえわ。諦めて一生懸命ショージンするわ。
 横を通り過ぎようとする小川の肩を、さっき諏訪さんにされたように組んだ。

「離せよ!」

「なまえにバムスターとかモールモッドとの戦い方教えてんだろ? オレのせいで大事なボーダー隊員が弱っちくなったっていうなら謝るし、イチ隊員のオレにもトリオン兵との有効な戦い方っつーの教えてくんね? A級隊員のオレがモールモッドに手こずるなんて、んなテキトーなことB級だかC級だかに言われたらこっちも示しつかねーじゃん。な?」

「し、しるか! お前にかまってる暇なんて」

「ままっ! そー言わずに。男らしく勝負しようぜ」

 抵抗なんてかまわず無理矢理小川が出てきたばかりの戦闘訓練室へ投げ込んだ。制限時間は十分。どっちが多くのモールモッドを倒せるか。よくなまえとこれでやってんだから得意分野だろ? あ、悪いけどこれ栞特性のやしゃまるゴールドだから。伝え忘れたけど。モールモッドと毎日戦って訓練しているやつなら余裕だよなー。


「――ありゃ、普通のモールモッドじゃなきゃダメだった? もう一回する? それともラービットにする?」

 数の差は圧倒的。ほぼ二秒に一体倒したオレと違って、小川は実質二分に一体。さすがに差、つきすぎじゃね? このトリオンが無限にも思える空間であっても、五回も供給器官破損させられればさすがに換装体とはいえ、生身にも負荷がかかるらしい。オレはなったことないからわかんない。仮想空間から出てきた小川は荒い息で座り込んだ。
 よかったね。人の少ない時間帯で。オレ、緑川ほど子供じゃねえからギャラリー呼ぶなんてことしねーし。

「わかってもらえた〜? 秀次の名だけでA級やってるわけじゃねえって。オレは個人戦のほうが白黒つけやすくて好きなんだけど」

 いくらなんでも本気だし過ぎたかなぁとは思ったが、三輪隊のことをバカにしたんだからしかたない。私事での争いもこういう形なら文句を言われないから、カゲさんもこーすりゃいいのに。

「みょうじさんがっ……弱いのは、本当のことだろ!」

 ――なぁ、その口はまだおしゃべりする余裕があんの?
 鉄が擦り合わさったような鋭い音を立てて硬い床へ槍の先を刺しこんだ。ほんの少し脅すつもりだったのに、まるで殺人犯でも見ているような顔をされる。ヒィと青ざめるくらいなら、人を煽る性格直した方がいいよ。

「ヘマした自分が悪いってあいつ本人が一番わかってることだろうし、あんま責めないでやってくんね?」

「っお、お前……みょうじさんの、なんなんだよ!」

 関係ないだろと怯えた目で吠えられても煩いだけ。てか、それこそお前に関係ねーから。諏訪さんは三角関係だとか言ってたけど、オレとなまえと“もう一点”なんていらない。

「さぁね。今から決めてもらうとこ〜」

 嫌いでなければどんな線でもいい。師弟でもクラスメイトでも、最悪友達でも。オレとなまえが繋がる一本の線さえあれば、それでいい。




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