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伊佐敷先輩の届け物

下の学年のクラスへくることは別に今更なんとも思わねぇけど、持ってるモノがモノだから人にぶつかって落としたりしないように気を使えばソワソワした。
袋の中身は手の中でガサリと揺れる。


「おい、みょうじ」


「あ、愛しの純さん!!」

「バッカやめろ!!」

自ら会いに行かなくてもみょうじならほっといてもやって来るとは思っていたけど、まぁたまには行ってみるかと、ごく稀に向いた気分。
教室に入った時はこちらに気付かず、御幸と倉持とアルバム写真を仲良く楽しそうに覗いていた。
呼べば大きな声と鬱陶しいぐらいの満面の笑み。

「え?わざわざここまで、私に会いに来てくださったんですか?!」

まるで恋する乙女のように、頬を染め、その頬へと両手を添えている。

「漫画返しに来ただけだ」

「朝イチで私に会いに来てくれるなんて…恋しくて夜も寝れないほど熱い妄想で私を犯…っ痛!」

「漫画返しに来たつってんだろーが!」

みょうじの後ろに立っていた倉持が、俺の代わりに思い切り頭を叩いた。

「容赦ねーなー」

「甘やかすとつけ上がるんで」

「倉持痛い!痛いって!!」

立て続けに拳でグリグリされるみょうじを見て、嘲笑ってる御幸。
こいつら本当仲良しだよな。
蹴り合い叩き合い…まぁみょうじはどこに行ってもこんな感じか。
自分のクラスに来た時も亮介と似たようなやり取りしていることを思い出す。

「邪魔して悪かったな。俺戻るから」

「御幸そこどけて。純さん座るから」

「お前、好きな人の話は聞かない主義なの?」


「今から聞くの」


キラキラした目で見つめるこいつは子犬か何かか?
すっげぇ懐いてっけど、俺の何がそんなに良いんだか。
別に沈んだわけでもない心が少しだけふわりと浮いた気がした。

「放課後また写真撮りにくんだろ?またな」

そう言ってわざと犬を撫でるみたいに両手でクシャクシャに頭を撫でてやり、教室を出る。
柔らけぇ髪…。
去り際に見たあいつの頬を染めてポカンとした表情は、優位な気持ちにさせてくれた。

来る時より軽くなった両手をポケットに突っ込んで、少しだけ上機嫌な足取りで階段を駆け上がった。




[ 伊佐敷先輩の届け物 ]

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