「痛いよ、トビオくん…。本気だしすぎー!ちょっと日向ちゃんもなんとか言ってよ!」
顔面に雪玉を受けて
それを見た田中とノヤがゲラゲラ笑っているし、投げた本人は加減がわからなかったのか首を傾げていた。
「影山手加減しろよ!みょうじさんだって女なんだぞ!」
「日向ちゃん?なんかそれ私の性別疑う言い方だけどだいじょうぶ?」
一つ年下の彼は手を差し出しながらトビオくんに大きな声で注意しているけれど、引っかかるもの言いに私は顔をしかめた。
「ち、ち違います!みょうじさんはちゃんと女の人だって俺はわかってますよ!」
今年初の積った雪を見てじっとしていられなかった組が、部活の合間に外へ飛び出し始めた雪合戦。
それはチーム戦というわけではなく、適当に投げ合っていた。
たまたま、日向ちゃんは私のそばにいたものだから、尻餅をついた私に手を差し伸べてくれたのだ。
その低身長から繰り出される力には試合中も驚かされるけれど、今も軽々と私を引っ張って立たせてくれたことには驚いた。
ただ、勢いが良すぎたのと積った雪で不安定な足元のせいで、彼の方へふらりと体勢を崩す。
「ありがと」
それも、両肩をがっつり掴まれたものだからなんとか立っていられた。
「てか、俺だけ“ちゃん”呼びそろそろ止めてくださいよ!」
「えー?でも友達に“ひなたちゃん”がいるから、つい日向のこともちゃん付けで呼びたくなるんだよね〜」
掴まれたままの肩はわしわしっと揺さぶられ、同じ高さの視線から“やめろ”という圧倒的な圧力。
年下のくせに生意気だな、っていうより、可愛いのに残念だ…。
「……かわいいよ?ひなたちゃん…」
「俺こそ男ですケド?!」
オレンジ色の頭がプンスカと音を立てているようで、ねぇ、ほら、可愛いじゃん。
そう言われても、改めてなんと呼べばいいのか。
トビオくん、蛍くん、忠ちゃん…。
あ、山口くんのこともちゃん付けだったわ。
「じゃあ、翔陽くんね」
「……えっ?!っうぉ!!!?」
大きな目をさらにまんまるにした翔陽くんも一瞬。
彼の顔にぼふっと雪玉が当たった。
「くっそぉ!影山ァ!!」
「ワザトジャナイ」
「嘘吐けぇ!!」
私の横をすり抜けて、トビオちゃんに向けてすぐさま雪を投げ返す。
雪が当たったからか、寒さでからか、後ろ姿から見える彼の耳は赤くなっていた。
「日向・なまえチーム対俺らな〜!日向レシーブで受けろよ!」
田中の投げた雪玉が私目掛けて飛んでくる。
突然すぎて、さすがに避けきれなくて目を瞑れば、いつまで経っても衝撃は来ず目を開ければ目の前には日向…じゃなかった翔陽くん。
「みょうじさんは俺が守りますから!」
私の前に立ちはだかった彼がかっこよく呟いたのはまるで王子様のセリフ。
「おー!頼もしい!よろしくね。翔陽くん」
「…〜っ!!ハイ!!」
一瞬悶えた後勢いよく返ってきた返事。
小さな巨人の彼の後ろから、雪玉を敵に投げ込んだ。