暑い季節。
食欲がちっともでなくて、坂ノ下商店で買ったアイスを食べながら、学校へと戻る。
パウチパックに入ったバニラアイスは蓋が閉められてとても便利だ。
だからといって残すつもりはないんだけど。
「みょうじ〜」
お店を出てすぐの所で、スガ先輩が向こうからやってきた。
「スガ先輩もお昼ですか?」
「おう!ってお前も?しかもお昼ってそのアイス?」
あ、しまった。
これはお説教が始まるフラグ。
思わず一歩下がる。
眉間にしわ寄せ先輩。
「バーカ、ちゃんとご飯食べなさい」
私のおでこにデコピンを食らわせてきた。
かなり痛い。
「行くぞ」
「え…もう行きました」
「おにぎり一つぐらい食えるだろ?」
「いや、無理です。もうこのアイスでお腹いっぱいです」
「はー?去年の夏、体育館の暑さに負けて倒れたやつ誰だよ?いーから来い」
無理矢理連れて行かれる坂ノ下商店。
烏養監督に、なんだまた来たのか、と笑われる始末。
もー…。
こんな時に役に立つんだな、パウチのアイス。
アイスの蓋を閉じて、先輩が適当に物色しているのをぼんやりと見ていた。
「まいど!」
烏養監督にお辞儀してもう一度お店を出た。
「はい」
スガ先輩から手渡されるのは梅のおにぎり。
本当に食べろという意味で買ってくれたのだろう。
「え…先輩ありがたいんですが、アイスもあるし…」
「アイスは俺が食べてやるよ」
溶けて食べやすくなったアイスは先輩にヒョイと奪われた。
手首に袋を揺らしながら、私から奪ったアイスの蓋を開けあろうことかそのまま食べ始めるではないか。
…なんていうかそれ、さっき私が吸ってたやつなんですけど…
一人で赤くなる私を見てスガ先輩はにやりと笑った。
「お前ってもしかしてこーいうの気にするやつ?」
「な!?べ、べつに?気にしません!」
あー…もう!
なんでこんな翻弄されてしまうんだろ…
冷めない顔を抑えたまま、おにぎりを握りしめて先輩を速足で追い越した。
「ま、俺は気にするけどね〜…」