やる気が出ない。
数学の期末試験が終わって気が抜けた、っていうのもある。
それ以外にも、少し色々あって…ちょっと気が抜けちゃった。
午後からは試験勉強のためのお休み。
もちろん部活もお休み。
体育館へ行けば誰かはボールに触ってる人がいると思う。
けれど、そこへ行く気も起きなくて、広げた教科書の上に顔を突っ伏しぼんやりとしていた。
「どうしたの?」
結構近くで聞こえた声。
椅子を引く音がしたから、私の前の席に座ったのだろう。
…いや、座ったわ。
「あかあしくん。やめてもらって良いかな?」
「ん?何が?」
「足。私の足をきみの足で挟まないで」
赤葦くんって、時々変態。
バレーではあんなに活躍するのに、こういうとこ残念。
「嫌?みょうじって良い脚してるからちょっと触ってみたいなと思って」
「嫌」
「そう。残念」
一瞬だけ訪れる無言。離れない足。
「赤葦くん?」
「ああ、ごめん。みょうじの脚があまりにも魅力的だから、つい」
表情一つ変えずにそんなことを言ってのける彼は本当に変わっている…。
一体何がしたいのか誰か教えてください。
私の脚なんてその辺にある普通の大根と同じだよ。
もうそれで良いよ。
嫌悪の表情で対応すると、彼は肩を竦めた。
「暇なら私に構ってないで体育館で遊んできなよ」
大好きな木兎さんが赤葦くんがくるのを待っているよ。
突っ伏して気だるげにそう言っても彼に動く気配はなく、困ってしまう。
今は少し、ぼんやりとしていたいのに…
頭に置かれた大きな手が撫でるように優しく髪を梳いた。
「デートに誘っても良い?」
慣れない触れ合いに、バカみたいな問題発言加えて投下してくるものだから思わず顔を上げる。
「一緒にコンビニ行こ。お腹空いたし」
なんだデートってそういうことか。
「一人でいっておいでよ」
「チョコレート買ってあげようか?」
ほっといて欲しいのにどうしてこんなに構ってくるのか。
少し苛々とした視線を向けると、困ったように眉を下げて笑った。
「笑ってよ。みょうじが元気ないのは、さみしい」
「元気だよ、大丈夫」
なんで今そういうこと言うかな。
そんなこと言われたら、どんな女の子だって甘えたくなるじゃないか。
一度だけ視線を外した後、少し悩んで立ち上がった。
「高いチョコ買って」
まぁしかたないし、彼の暇に付き合ってあげないこともない。
私チョロいな…
わざと大きく溜息を吐いて立ち上がれば、私の表情を見て彼は満足気に笑う。
「うん、良いよ」
二人でコンビニへ向かう途中で木兎さんに出会って結局体育館へ連行されてしまったけど、さっきより心はふわりと軽くなっていた。
「ありがと、赤葦くん」
「どういたしまして。 脚、触っても良い?」
「嫌」
彼の脳内は理解不能だ…。