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少しだけ、ドギマギしてしまう

今日は全学年、全クラス体育祭の話し合いがあるようで、いつもに比べたら集合が遅い。
むしろまだ一人。
教室を出たとき、赤葦くんのクラスの横を通ったけれどまだ話し合いは続いていた。
きっと、まだ時間かかるだろう。
自分にできることをしておこう、そう思ってポールに手をかけたとき

「それ、一人で出すには重いんじゃない?」

「あ、赤葦くん…っうぇ!」

走ってきたのか息を切らした思わぬ人物の登場に、下ろしかけていたポールがバランスを崩す。

「っおい!」

「………ヒッ…あ、りがとう」

後ろから支えられて思わず変な声が出る。
さっきも出たけれど。
距離の近さに驚くのだからしかたない。
真後ろに立たれて、抱きつかれるように両サイドから伸びた手。
息が上がっている彼の吐息が耳にかかってくすぐったい。
赤葦くんの支えによって、一度ポールは元の場所に戻された。

少しだけ、ドギマギしてしまう。

木兎先輩…早く来ないかな…


「悪かったね、木兎さんじゃなくて」

まだ、赤葦くんの胸らへんが背中に触れている。

「へ!?いや…あの、本当にありがと。私、一番に来たから、できることしようと思って…」

どうしてここで木兎先輩の名前を出すのだろうか。
心が読まれているようで、居心地が悪い。
話を逸らしたいのに

「木兎さんじゃなくてがっかりしたんだろ?」

「…木兎先輩は、関係ないんじゃ、ないかな?」

「そう?鈍感もここまでくると空気読んでないのと一緒」

…赤葦くんは、時々意地悪だ。
頭を下げているのか、髪が背中にあたってくすぐったい。
どういう状況かつかめなくて、オロオロするばかりの情けない自分。
遠くで体育館へ入ってきた人の声がする。

「はぁ…みょうじって鈍感すぎて、酷い」

「え?」

全然動かなかった赤葦くんは、こちらへやってくる足音が近づくとぱっと離れた。
ようやく動かすことのできる体で振り向いたら、赤葦くんの向こうに木兎先輩。


「なまえ…と赤葦、ここで何やってんの?」


先ほどの出来事を忘れさすほどの存在。
ただ、低くてゾッとする声。

「準備しようとしていただけですよ。まだ他の部員来ないみたいだから、木兎さんあとお願いしますね。俺着替えてきますから」

「…あーそ」

木兎さんの横を颯爽と抜けていった。

「…本当になんもなかった?」

すぐにズイっと近寄ってくる。
顔を覗き込む顔が真剣でかっこよくて、止まる呼吸と真っ白になる思考。

「え?あ、はい…ポール、出しておこうと思ったんですけど、重くて…」

それでもなんとか口を開いてかすれる声を出す。
じっと見つめてくる琥珀色の視線を見つめ返すのが精一杯で顔が熱くなることまでは気が回らない。

「ふーん。じゃあイイけど。これ重いんだからなまえ一人で持てるわけねぇだろ」

豪快に笑われる。
先ほどの雰囲気はもうなくて、いつもの木兎先輩がそこにいた。
それに少し安心して、へへっと笑ってしまう。

「お前の貧相な腕で持てるわけねぇだろ、ほら」

「貧相じゃないですー」

「俺のには敵わねぇだろ?」

得意げに腕を巻くって見せつけられるのは、たくましい筋肉の付いた腕。
触ってみろと言わんばかりに「ん!」と近づけられる。

「大丈夫です!わかってます!!うちのエースですから!!!」

「えー?良いから触れよ!お前にもっと……あ、いややっぱなんでもねぇ」

「へ?」

渋々に伸ばしかけた手は空を切った。
少し顔を赤らめた木兎先輩は袖を戻した。
嫌、だった?
でもそういう感じではなさそうで。
恥ずかしそうにしている木兎先輩が珍しい。

「なんかお前に触れると、緊張するからやっぱやーめた!」

「え!?なんでですか!そこまで言うなら触らせてくださいよ!」

「…うお!もう!やめろ!こっちくんな!」

「あ…もしかして木兎先輩、恥ずかしくなったんですか?」

「良いから、準備するぞ!ほら、なまえはネット持って来いよ!」

「はい!そしたら触らせてくださいね!」

「やだ!」


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