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ホンローカノジョ
とたとたと走ってくる音に逃げ出したい衝動。
頭痛がし始める。

「じゅーーーーーんっ!」

「あー…亮介、居ないって言っとけ?」

「すぐ捕まると思うけど」

逃げ出したい衝動を優先し、隣のクラスへ繋がるベランダへ。


「あれー?亮ちゃん、純は?」

「逃げたよ」

「なんで?!」

「みょうじ先輩が嫌だから」

「私は好き!どっち行った?」

「教えない」

「じゃあ哲ちゃんのとこ行ってみよ〜」


こっそり窓のスレスレから顔を出し教室内を覗き見れば先輩の姿は見えなかった。
安堵のため息を吐いて教室に戻る。

「はぁ…しつけぇ…」

「向けられてる好意を素直に受け止めれば?彼女じゃん、一応」

そう言われれば自分でも顔が熱くなるのがわかった。
みょうじなまえ先輩は、一つ上の学年の、野球部のマネで、……俺の彼女サン。
その事実は紛れもなく嬉しいことなんだけど…
所構わずベタベタイチャイチャとしてくるなまえサンには頭を抱えている。

「なんであんな距離近ぇかなー…」

「基本誰に対してもあの人はあんな感じだし、好きな男になら、尚更、でしょ。
まぁ、でも、純からしたら堪らないよね〜」

嘲笑う亮介を睨みつけた。
堪らない?
ふざけんな!こっちの気持ちも知らねぇくせに!
俺が!俺だって!!!!

滾る思いがあったところで、姉貴たちによる教育の成果、紳士と騎士道という理性が食い止めている。

「哲のとこに行くって言ってたけど…みょうじ先輩、哲にも無自覚ベタベタしてたりして…」

嘘くさい困った顔してんなぁ!コラ!!
そんな安い挑発に乗ると思ってんのか?!!



「…哲も天然だから、色んなとこ触らせてたり、ネ?」



おい!クソ!!なんでそんな人の不安を煽るようなこと!!

「……いってくる」

「素直になれば良いのに。純はなんだかんだみょうじ先輩のこと溺愛してるもんね」

「ち、ちげぇよ!バカヤローー!」

溺愛?
そんなわけねぇだろ!
男の愛が重いやつほどめんどくさくて続かねぇ恋はねぇんだよ!!




哲のクラスに行けば彼女はいて、案の定亮介の言っていた通り、哲に!!ベタベタと!!!


「はぁ〜…哲ちゃんもだんだん素敵な体になってくよね〜」

「みょうじ先輩」

「ん〜?このガッツリした胸板が…」

「みょうじ先輩、純が」


ゆっくりと振り向く、なまえサンは俺の顔を見て青ざめた。

「じ、じゅん!こ、これは…」

浮気の現場でも発覚したかのような展開。

「みょうじ先輩に胸触られた」

この惚けた男は一発叩かねぇと頭動かねぇのか?

「哲!セクハラ受けたみたいな報告してんじゃねーよ!拒め!!」

「……やめろ?」

「遅ぇよ!! だいたい!なまえサンも……ッあ、ぃ…?!!」

その姿を探して振り向けばそこに姿はなく、背後に感じる気配。
腰の辺りからぞわりとする感覚が登ってきた。

「落ち着いて?純のおっぱいが一番好きだよ?」

へらりと笑いながら人のおっぱいを揉みやがって、俺をなんだと思って……おっぱいねぇよ!!!
あるけどねぇよ!!!


「いい加減にしろよ!」


思わず荒がった声に教室は静まり返るし、なまえサンはビクリと肩を揺らした。
あ、ヤベェ…とは思ったけど、引き返すこともできねぇし、何より周りの視線が痛すぎて二人に踵を返した。



はぁ…俺の好きな人はなんであんなアホなんだよ…



ため息の内容までアホらしくて、自分の教室に戻ることもせず廊下を抜けた。

とたとた聞こえる走る足音は120パーセントなまえサン。
タ◯ちゃんかよ。
無言のまま、俺の制服の裾を掴み小走りでついてくる。

ついてくる。

ついてく…



「なんか言うことあるんすか?!」



なんでなんも言わねぇんだよ!
足を止めて振り返れば、しょんぼりしてるかと思いきや、ニヤニヤと口元緩めてる。
自分の彼女に言うことじゃないけど、頭大丈夫か?

「もしかして、妬いてくれた?」

「違いましたわ。そんな気がしてたけど、今違いました」

「え!何それどういうこと?!妬いたから怒ってるんじゃないの?」

アホか。バカか。
選択肢はその二つ。
際どいけど……両方だな。

「別に」

「わーい!純がヤキモチ妬いてくれた〜!ツイッターでお知らせしよう」

「は?!何言ってんすか?!あんたもしかして他にもくだんねぇこと言ってねぇだろーな…」

「その日嬉しかったことは逐一フォロワーさんに報告してるよ?」

ポチポチとタップしている携帯を彼女から奪おうとすれば、ここぞとばかりに器用に身を翻す。

「ふっざけんな!!そのアカウント教えろ!消せ!!」

「純って束縛したいタイプ?」

「なっ…違ぇよ!!違ぇけど!!」


「ちなみに私はされたいタイプ。純にならね?」

男の束縛ほどみっともないものはない、とどこかの姉貴が言っていた。
翻した身は、おちょくるように今度は抱きついてくる。
人通りは少ないけど、ここ廊下。な?
鼻をすり寄せ俺の匂いを嗅ぐように息を吸う。

あー…本当誰かこの女をなんとかしてくれー…


「へへ、純がヤキモチ妬いてくれるなんて思わなかったから、嬉しー」


なんで!!突然可愛いこと言い出すんだよ!!
なまえサンに抱きしめられたままそばの壁にもたれる。

「私が強引に告白して付き合ってもらっちゃったからさ。時々、不安になっちゃうんだよねー…」

肩口に顔を埋めてるからその表情は伺えないが、珍しく、本当に珍しくしおらしい声。
そんなこと、この人思ってたんか。
普通に女子だったことになんか安心して、しかたねぇけどぎゅっと抱き返す。

「あーもー…誰かに見られたらどうするんすか…」

「写真撮ってもらってフォロワーさんに…」

「ヤメレ」

「えー? ねぇ、純!」

キラキラと星でも瞬いてそうな瞳がこちらを見上げる。
こういう時はだいたいよくないお願い。
絶対きかねぇ、絶対甘やかさねぇって思ってんのに…クソ可愛いなおい!!
でも、今日は怒ってる、そうだ俺怒ってるから!!


「…今日はなまえサンからしてください」


彼女のおねだりを素直に聞かないのも、リードする彼氏の鉄則だよな?
リードできたことねぇけど!!
なまえサンは頬を膨らます。

「純からしてもらうのが好きなのにー…。しかたないなぁ。今日だけ、特別だよ?」

大きな瞳をすっと細めて、意地悪く笑う顔は一つしか違わないのに大人っぽい。
その表情に翻弄されちまう心臓に耐えれず視線を逸らした。


「純、こっち」


囁くように呼ぶのは卑怯。
熱い頬を掴まれて引き寄せられた。
優しく触れた唇。
最後にペロリと舐められる。

「っな!?!?」

「純、顔真っ赤だ!かーわいーのー!」

「くっ…なまえさんだって、少し赤くなってんじゃねーかよ!」



「だって、好きな人に自分からキスしたの初めてだもん」



もう本当、この翻弄彼女をどうにかしてくれ…

きゃっと言って抱きつくなまえサン。
悔しいから、その唇を荒々しく奪い返した。



AofD short [ ホンローカノジョ ]