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Restyle 2
「ケープないんでしょ?服脱いで良い?」

浴槽の内側に足を入れるように縁に座らされ、さぁいざというとこで、彼女の手を止める。
少し肌寒いけど、服に髪が付くのは面倒だ。

「あ、そうだね。じゃあバスタオル…を……っ!」

「…なに?」

「なななんでも、ないよ?!寒いから、早くバスタオル!!巻いて!!」

「たくましくて見惚れた?」

冗談半分でバスタオルを肩に巻きながら背を向けると、間を空けて小さく返ってくる「うん」という返事。
なんで突然素直になるかな?
こっちが恥ずかしくなるわ。

「じゃあ切るよ」

別に返事なんてしなくても、小気味好い音が浴室に響く。
横の洗面に付いた鏡に時折映るのは、真剣な横顔。
整える程度とか言った割にかなりはさみ入ってない?大丈夫?
そう感じる不安よりも、なまえの手が耳や首回りを時々擦れるのを意識してしまうのだから重症かもしれない。

なまえはそんなの気にもしてないだろうけど。



「あとどのくらい?」

「もうちょい梳いてー…」

「ねぇ、向こうで彼氏できた?」

「んー?彼氏ー?…ん?!彼氏?!!」

それまで集中していたなまえの手が止まりごにょごにょと言葉を濁すものだから、振り向かなくてもわかるほど動揺しているのが伝わる。

「手も口も動かさないと商売にならないんじゃないの?」

「あ、ハイ…雑談なら、もっとフランクなのにしてもらって良いですか?」

「たとえば?」

「あー…お客様、春から大学生ですかー。高校に彼女とか置いて来たりしてませんかー?」

途端に接客口調になったなまえが口にした話題は結局それで、思わず笑ってしまいたくなる。
なんなのそれ?
俺のこと気になるの?
前側も切りたいからと、なまえも浴槽へと入り向かい合った。
真剣な表情は崩れていないのが、妙に悔しい。


「彼女ねー。好きな子ならいる」


「…へぇ、どんな子なんですかー?」

なまえの声が微かに震えているような気もする。
それとは逆に軽快にはさみが交差する音。
パサリと目の前を多めに髪が落ちていった。


「何事にも一生懸命な子でね、よく周りが見えなくなってる子」

少しずつ開ける視界に、軽くなる言葉。

「そんなんだから、俺の気持ちにも気づかないで、ずっと片思いさせられててさ」

誰のことか、お前はわかる?
俺がバカみたいに一途に思ってる女の話なんだけど。

「まぁ、彼女の夢を応援するために、彼女の気持ちを俺も気づかないフリしてたんだけどさ」

もういい加減、“幼馴染”も卒業しよ?
サクッ、と最後の音を立てて音は止まった。


「昔からずっと好きな、幼馴染なんだよね」


襟足に手を伸ばせば、随分とすっきした後頭部。
前髪をこんなに切ったのは久しぶり。


「…っりょ、くん!」


明るくなったはずの視界は、なまえの突然の抱擁で埋め尽くされる。
彼女の鼓動も早くて、俺と同じだったんだって実感した。

ポタリと髪に落ちるのはなまえの涙だろう。
後ろに回した手でポンポンと背中を叩いてやる。


「ねぇ、ちゃんとカッコよくできた?失敗して泣いてるんじゃないよね?」

「ちが!…ちゃんと、できたよ!」

肩からバスタオルが落ちて、肌寒さを感じるどころか少し熱くさえ思う。
立ち上がってちゃんと鏡を見れば、ずいぶんとスッキリした頭。
上手になった、と言うだけのことはあるじゃん。

「ありがと。ついでにシャワー借りても良い?ちょっと流したい」

バスタオルを巻いていたとはいえ、首回り少しチクチクする。

「い、い、良いよ!良いから!バスタオル巻いて!」

別に上着てないだけなのに、過剰反応すぎていじめたくなる。
可愛いの。



切った髪を片付け、軽く流すだけのシャワー。
適当に拭いて部屋に戻れば、ドライヤーを持ってソワソワしながら待ってるなまえ。
あ、着ていたシャツはどこにやったっけ?
まぁ、まだ熱いから良いや。

「お、お客様!髪を乾かしますので…こちらに…」

「それ、まだ続けるの?」

閉めたトランクの上に座らされて、肩に別のタオルをかけられ、熱風を吹き付けられた。
人にやってもらうから楽だし、短くなった髪は以前より格段に早く乾いた。
ドライヤーの音が止んだのと同時に振り返る。


「お前からの返事、聞いてないんだけど?」


ちゃんと聞きたい。
言葉にでもしない限り、幼馴染は終わらない。

「好きだよ、なまえ。ずっと昔から」

見上げれば、目を潤ませ赤く熟れた頬で優しく笑った。

「私も、好きです。亮くんのことがずっと、ずっと前から…」

下から伸ばした手で、なまえの後頭部を引き寄せ口付ける。
ずっと変えたかった距離は、何年もの月日を経てやっとゼロになった。
柔らかな唇が愛おしくて、泣きながら抱きついてくるなまえが愛おしくて。

「りょうくん、すきっ…ずっと、会いたかった…こう、したかった…」

布団も何もないこの部屋の床で、拗らせていた時間を肌で抱き合って埋めるほど、俺たちは互いに求め合っていた。



「…っね、ちゃってた…?」

日が昇る頃、自分の腕の中でピクリと動いた小さな体。
眠そうなトロンとした目で嬉しそうに笑う。
エアコンもつけっぱなしで、何枚かあったバスタオルとジャケットを羽織ってくっついて寝てたから寒くはないけど、決して寝心地が良いとは言えない床。

「おはよ」

「…亮くん」

「ん?」

「…ただいま」

「今さら?……おかえり、なまえ」

コツンとぶつかり合う額。
嬉しそうに笑うなまえ。

日常、夢、環境。
二人の関係も新しく。
それでも俺はこれからもお前の夢を応援するよ。
ただし、これからはちゃんと俺のそばにいることが条件で、ね?




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