×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
ge Senu
 恋愛というものに疎い自信がある。今の今までそういうことを考える暇もなく今日まできてしまったからではあるが、別段不便を感じることはなかった。今この瞬間まで。

「風間くんはどう思う?」

 こういう質問に対しても「知らん」としか言いようがないのに、なぜ俺にそれを相談するのか。いつも同じような相談で、いつも同じような返答しかしていない。のに、懲りずに話してくる。理由を聞けば「風間くんは時々的確な意見を言ってくれるから」とのこと。時々なら頻繁に聞いてくるな。目の前の女はテーブルに項垂れるよう顔を伏して溜息を吐いた。
 大学内のカフェは今時間閑散としている。相談料として押し付けられたコーヒーへは牛乳をたっぷりと注ぎ入れた。

「私、好かれてなかったのかなぁ」

「知らん。はっきり聞いたらどうだ。諏訪本人に」

「フラれるかもしんないじゃん」

 それも「知らん」としか言いようがない。
 みょうじの悩みは、ついひと月前に付き合い始めた諏訪が自分を避けるようになった、という旨。そんなの諏訪に直接「なんでだ」と聞くしか手はないじゃないか。俺に聞いてどうなる? 俺の意見が諏訪の意思と等しいとは限らない。予想とは覆されるものだ。
 そもそも、好きだから“付き合う”という関係を結ぶわけで、それを“好かれてないかも”と不安になる必要性がどこにある? 四六時中ひっついていろとは言わないが、諏訪も諏訪で付き合っている女をなぜ避ける必要があるのか。事実諏訪は確かにみょうじを避けているような節がある。どうせこの女に後ろめたいことでもあるんだろう。
 しかし、考えたところでは確かなことは俺にはわからない。自分が取らない行動の理由などわかるわけがないのだ。



 これから講義のあるみょうじと別れた後しばらくして、話題に上げられていた男がやって来た。適当な挨拶をして、先程までみょうじが座っていた席へ腰かける。夜勤明けで一時間も寝てないとか、講義の内容がどうだったとか、出された課題がこうだったとか。そんな話をしながら時々視線がカフェテリアの中を彷徨っていた。

「みょうじなら講義に行ったぞ」

「なっ!? 何だよ急に。べ、別に聞いてねぇだろ!」

「探しているのかと思ったが」

「探してねぇよ! 探してねぇ! つ、つつ堤と約束があんだよ!」

 そうか。やはり察してやるというのは難しい。恐らく諏訪はみょうじを探してはいるが、それを悟られたくはないということだろう。

「…………やはり好きじゃないということか」

 小さい声だったというのに、呟きに反応して目の前の男はコーヒーを噴出するほど咽かえった。

「図星、ということか」

「は、はぁ!?」

「ならばみょうじが哀れだな。俺が諦めろと言ってやったほうが身のためになるだろう」

「ちょ、ちょっと待て! 風間お前何言ってんだ!?」

「ここ最近みょうじがいつも諏訪に避けられていると落ち込んでいてな。正直鬱陶しい。どうせお前のことだみょうじに後ろめたいことでもあるんだろう? それなら俺が――」

「待て風間!! 落ち着け!! 頼むから! 落ち着け!」

 お前がな。向かいに座るこちら側までわざわざやって来て、体を揺さぶられる。服を掴むな皺になる。全力でその手を叩いて払いのけてやった。

「避けてねぇよ!」

「あの行動を避けてないと言うなら、みょうじの気苦労はなんだ? 男なら言葉でなく態度で示すべきだ」

 恋愛なんて知らんがたぶんそう。巻き込まれるこっちも迷惑だから、早く仲直りでもなんでもしてくれ。

「それができたら苦労してねぇっつーの!」

「苦労してるのか?」

「あーしてる! あいつ自分が女だって自覚がねぇんだよ!」

「そんなもの生れた時からあるだろ」

「ないな! 男もいる飲み会だっつーのに可愛いヒラヒラしたスカート履いてきたり、デレッとした顔で笑って可愛かったり、こっちはむさ苦しい男集団にいんのに嬉しげに「諏訪くーん」って手を振ってくんだぞ!? 公衆の面前だしむさ苦しい男がいるんだぞ!?」

「それはみょうじが可愛いという話か? それとも可愛いから他の男に取られないか心配だという話か?」

「違ぇよ! 違わねぇけど! なーんにも考えてなさそうに「今日諏訪くんち遊びに行っていい?」とか恥ずかしそうに聞いてきたりするんだぞ!? なんかあったら!! どうすんだ!!」

 興奮気味の烏みたいにギャーギャーと耳障りだが、要約するにみょうじが可愛くてしかたないということにしか聞こえない。

「なにかってなんだ。男なんだからお前が守ればいいだろ」

「俺が男だからまずいんだろ!」

「…………そういうことか」

「わかったかこの恋愛音痴!」

「安心しろ諏訪。俺たちはすでに二十歳を超えている。そういうのは互いの了承の上なら自己責任だ。お前がきちんと避妊――」

「わかってねぇじゃねぇか!!」

 言葉の先をデカい声で遮った後に、自席へ戻り項垂れるようにテーブルへ伏してガシガシと黄色い頭を掻いた。こうして人のつむじを見るのは今日二回目だな。
 案外諏訪も意気地がないところがあるらしい。そろそろこの話も時間の無駄な気がしてきた。結局のところ二人は上手いこといっているように俺には見えるからだ。

「いっそ、そうしないからいつまでもみょうじを避けなければならなくなるし、みょうじはみょうじで嫌われているかもなどと愚かな悩みを俺に打ち明けるんじゃないのか?」

「できるかよぉ」

 諏訪にしてはらしくない腑抜けた返事だった。「風間じゃなく俺に直接言いにこいよな」などそれはただの愚痴だ。自分の行動を改めろ。

「なんでだ? 前はAVの女を見かけて騒いでいただろ」

「そんなのとなまえを一緒にすんな! あいつは、なんつーか…………好き過ぎで尊い」

「偶像崇拝だな。みょうじはキスしたいだの言っていたぞ」

「ハァ!?」

 みょうじに自分の理想を押し付けているだだろ。みょうじ自身は自分の欲望を口にできるほど、よっぽど人間臭い女だ。
 勢いよく顔を上げた諏訪はみるみるうちに顔を赤く染め、「なんで風間に言うんだよ」とキレ散らかす。何度も言うが、俺に言われたくなければ自分の行動を改めろ。

「諏訪くん!」

 ヒッと一瞬悲鳴をあげた諏訪は口元を手で覆いながら声がしたほうとは反対のほうへ勢いよく顔を向ける。未だ顔の熱が冷めないらしい。しかし本質には気付かず、背けた諏訪の頭を見てまたみょうじが困ったように、寂しそうに笑っている。

「みょうじ、そんな顔をするのは杞憂だ。こいつはお前がキ――」

「風間おいテメェコラ!!」

 慌てた諏訪に口を塞がれてしまい、本意を伝えるまではできなかったが概ねわかるだろう。わかれ。これ以上俺を巻き込むな。塞ぐ諏訪の手の皮を強めに抓んだ。

「いっ! クソ風間! 手加減しろよ!!」

「俺はもう授業に行く。あとは二人で勝手にしろ」





―――

「諏訪くん」

 風間くんに取り残されてしまったが、こんな風に二人きりになるのは久しぶりだった。二人きりといってもここはまばらとはいえ人もいる。公衆の目がある。
 怒っているであろう彼にどんな言葉をかけていいか悩んで、悩んで、私は「前に戻ろうか」と言おうと思っていた。それは最悪の選択肢。
 二度目の「諏訪くん」という呼びかけに、深い溜息と「お前なぁ」という呆れた声。私は心の中で身構えた。

「風間に余計なこと言うなよ!」

「よけいな、こと?」

「その……き、キスしたい、とか!」

「だって、本当のことだし。諏訪くんは聞いてくれないし。嫌だった? ごめんね! 彼氏に意味わからないまま避けられてるからさ!」

 付き合い出したばかりだというのに、一ヶ月近くも彼氏に避けられたら愚痴の一つぐらい言いたくなる。キスしたいは願望だけど。
 久しぶりの二人の会話だというのに思わずカッとなっていた。こんなのってない。喧嘩別れはもっと望んでない。

「ごめん。私、あっち座るね。じゃあ」

 踵を返したところで手首を掴まれ引きとめられる。特にかけられる言葉もなくて、振り返ったところで私は目を丸くした。


「――距離感、わっかんねーんだよこっちは」


 だって諏訪くん顔が真っ赤で恥ずかしそうだ。
 付き合ったら、どの距離感で接していいのかわからなくなったという諏訪くんは、私の手首を掴んでいた力を緩めて少しばかり持ち上げた。

「べつに、お前が嫌いとか、キスが嫌だって話じゃねぇよ。……い、今は、これで勘弁しとけ!」

 指先が、諏訪くんの唇を撫でるように一瞬触れてすぐに手ごと離された。困った顔した諏訪くんの赤い熱はこちらにまで移ってしまう。
 どうしよう。せめてもう一度、手だけでも繋ぎたいと、威嚇されずに伝えるには。





柚子さん、3万hitのフリリクにご参加ありがとうございました!
諏訪さんで「はぁ!?」と照れギレのリクエストでした。
以下お返事

柚子さんいつもお優しいコメントありがとうございます!
付き合っても指一本なかなか触れてこない諏訪さんすごくわかります。解釈の一致どころか融合合体です!!
付き合い始めは距離感が迷子になってしまってそうだなぁと思いこういうお話になりました!以前、夢主のいないところの話も好きと言っておられたので風間さんに頑張ってもらいました笑
気に入っていただけますことを祈ってます!
フリリクへのご参加ありがとうございました〜!




WT short [ ge Senu ]