短編 | ナノ
黄瀬と笠松とマネジャー




15分休憩、水分はよく取るように。と武内監督の気怠そうな声がブザー音とともに聞こえた。あのビールっ腹、昔は日本の国旗を背負った一流のバスケットボールプレイヤーだったらしいが今の監督にはその面影すら残ってない。
おっと、あんな暑苦しいオヤジなんて見てないでドリンクの準備を済ませてしまわなければ…

「名字っち〜」
「う゛ぇ」

はいドーン。突然背後からのしかかられて危うくボトルを落とさそうになった。部活中だからひっつくなとあれ程言ってるのになんで学習しないんだこの男は。


「ったく、仕事の邪魔だからあっちいってろ黄瀬ェ」
「ああっ、ちょっと名字っちヒドイ。オレ頑張ったんスよ?ねぎらいとかないんスか〜?」
「ない!」


練習上がりで汗べっとりする黄瀬をベリッと引き剥がすとまるで捨てられた子犬のようにキャンキャンうるさかった。そもそもコイツには先輩を敬うという気持ちがないのかよ、オレ一応二年生。


「オイコラ黄瀬ェ…」
「ひぃっ!?」
「あ、笠松先輩」


黄瀬の傍若無人っぷりに見かねたキャプテンがドスのよく効いた声で歩いてくる。ゆっくりゆっくり、一歩ずつじんわりと。


「ずいぶん元気そうじゃねえか」
「あっ、いや、すみませ」
「まだ走り足りないか?」
「いや…そんなこ」
「ちょっと部室いってタオル持って来い」


人数分をダッシュで。と笠松先輩のグーパンを一発もらった黄瀬は部室へ飛んでいった。さすが「キセキの世代」はデカいだけじゃない。早いな…


「悪いな名前」
「気にしないでくださいよ先輩」


寧ろ、こうやって使ってくれて嬉しいと思ってる。去年のウィンターカップで膝を故障してもうコートに立つことがないオレを、マネージャーとして働かないかと声を掛けてくれたことが。男がマネージャーだなんて、他人から見たらちょっと胸を張れないコトかもしれないがオレはこれで満足してる。


「まあ黄瀬のせいで女子マネ禁止にしたってのもあるがな」
「ああ、あのモデルって実はスゴかったですね」


黄瀬がバスケ部に入るやいなや毎年なんとか繋いでいたマネージャーの希望者が学年問わず急増。森山先輩とかは泣いて喜んでたけど女子免疫皆無の笠松先輩がお倒れになったので、今年は女子マネの募集を止めて、代わりにオレに声がかかったと言うわけだ。


「だからお前にはホント感謝してる」
「いやそんな…」

「名字っちー、タオルこのぐらいで足りるっスか!?」
「ぐっ」


はいドーン。バカみたいにハイテンションな声と共に背中に衝撃が。さっきみたいな汗のベタつきはないがなま暖かい体温がシャツを通して伝わってくる。…そろそろオレも我慢の限界なんだが。


「タオルってベンチに畳んであったやつ持ってきてんスけど、これでよかったっスか?もし違うんならもう一回行ってきますけど…」
「黄瀬」
「…名字っち?」


未だ背中に密着する黄瀬もさすがに気づいたのか、オレから離れるとタオルを抱えたまま目の前に回ってきた。ちょうど、向かい合うような形になる。視界の隅では笠松先輩がおどおどしていたがそんなのは、知らん。


「歯ぁ食い縛れェ!!」

「ちょっ…本気!?」


オレ一応モデルなんですけど!と黄瀬は持っていたタオルを手放して防御の姿勢に入る。
安心しろ。背負い投げで手を打ってやる。




今日も空が青い
(小堀、今日も平和だな)
(そうだな森山、)

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