短編 | ナノ
青峰と××

青黒要素有り
精神世界的な






どこかでわんわんと泣く声がする。どこだろう、どこだろう。真っ昼間だってのにしんと静まり返って車の走る音さえしないこの住宅街。この浮世離れした街のどこからか聞こえてくるのは間違いない。どこだろう、どこだろう。






太陽に背を向けて暫く歩いて行くと声はだんだん大きくなった。子供がいるのはこっちで間違いないようだ。さあもう安心して。すぐ見つけてあげるから。






わんわんと泣き声がする。
寂しい、怖い、早く迎えに来てと泣き続けている。






「どうしたんですか?迷子?」






漸く泣き虫な男の子を見つけた。公園の真ん中にポツンと1人だけ。褐色の肌が砂で汚れているのも気にせずただ縮こまって体を最小限に丸めている。
そんなに小さくなってしまったら余計見つけられにくいのに。






「ああ擦り剥いちゃったんですか」






公園に入り男の子の前にしゃがむと、真赤な液体が膝から始まり綺麗な靴を染めてるのに気付いた。






「放っておいたら化膿して大変な事になりますよ。手当てして差し上げますから水道まで行きましょう……立てますか?」






手を握って立つように促して上げた。でも男の子は泣いてばかりで立とうとはしなかった。この傷はそれほど痛いものなのだろうか。仕方ないので私1人で水道まで行き、ポケットから出したハンカチを濡らして男の子の膝や足の血を拭ってやった。






「あらあら」






せっかく綺麗にしてやった膝の擦り傷。なのにまたどろっとしたモノが流れ出てきた。
どうしたものか。私はもう分からない。






「いったいどうしたの?泣いてばかりじゃ分からないよ」






そうやって自分を隠してばかりじゃ伝わらないよ。さあ喋ってごらん。君のしたいことを教えてちょうだい。






「待ってるの…」






わんわん泣いていた男の子はのそって顔を少しだけ持ち上げ、擦れた声で言った迎えに来てくれるのを待ってると。






「いつくるの?」


「わからない」


「約束は?」


「してないよ」


「それはそれは…」






困りましたね。
私がいくら腕を組んで頭を悩ませてもこの小さな男の子は泣き止んでくれるはずもなく。だからといって私がいつまでもここに居座るわけにもいかない。







青峰君」







声がした。
子供の泣き声意外に、真の通った大人の声。一定の間隔を保ちながら聞こえてくる声はだんだんと大きくなった。







「青峰君」







今度ははっきり聞こえた。
振り替えると人がひとり、肩を激しく上下させて立っていた。太陽を背中にしてるから顔はよくわからないけど、泣いてる彼と違って真っ白な肌をしてるんだなってことはなんとなく分かる。






「やっと見つけました。遅くなってすみません…さあ帰りましょう青峰君」






日焼けのあとが全然ない水色の男は私に脇目をくれずに男の子の前に立った。男の子は顔を上げ、その差し出された手の平を見つめる。






「テツっ!」






とたん、男の子はそのひょろひょろとした胸に飛び込んだ。男は震える背中をそっと撫でていた。それはそれは愛おしいものを見る目で。






「ひとりにさせてしまったのはボクのせいでしょう。でももう大丈夫です。一緒に帰りましょう皆のいるところへ」






水色がそっと笑いかけると、男の子は無邪気な笑顔を作ってうんと大きく頷いた。








君を深海の底から

引き上げてくれるのは

彼しかいないんだ









青と水色がいなくなった公園。
腹に響いていた泣き声は消え、鳥の鳴き声にタイヤがアスファルトを削る音、木々を揺らすそよ風などの雑音が酷くうるさくなった。


ああ、平然と彼の隣を行く君が恨めしい





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