契約彼氏と恋をする | ナノ
それでも幸せだったよ




 人生最大の賭けは大当たりだった。最後のあのシーンでアドリブを入れたのは、最初はただの悪戯心にるよものだった。ここでただ抱き締められるだけなんてイヤ、もっと印象的で衝撃的なコトをしたい。そう考えながら涼太君の胸に飛び込んだ。
 もちろん、考えてただけでノープラン。まさか涼太君瀬君の胸に飛び込んだだけで涙が溢れてくるとは思わなかった。

"もう何処にも行かないでくれ"

 あの言葉には驚いた。まったくアドリブのあの台詞は、"役"を通して私に言ってるだろうことは直ぐに分かった。凄く嬉しかった。



──今年大注目の新人女優が初主演!



 そんな安っぽいキャッチフレーズを掲げたポスターが電車内の広告スペースに所狭しと並んでる。いったい、私がいつ女優業にトランスしたのだろうか。いつだって彼ら商売人は、利益のためならなんでも改ざんする。
 はあ…と人目を気にせずに、ガタンゴトンと揺れる電車の中でため息を吐いた。これだから私はおちおちと涼太君に会いに行けないのだ。仕事がぐっと忙しくなったというのもあるが、なによりスキャンダルになるのが怖い。

 私は仕事のオンオフでメイクの仕方等を変え、雰囲気をガラリと変えてるから今のところ生活に支障が無いのが唯一の救いだ。涼太君はファンが学校に押し寄せて大変だと、噂で聞いているが。


「涼太君……」


誰にも聞かれないよう小さく小さく彼の名前を呼んだ。
もうこれっきりなのだろうか。「会いたいよ」と、たったこれだけの文字さえも送れない、作成しては消去するメール。
会えないよ、って返って来るのが恐かった。
分かってる。これ以上お互いの奥に踏み込んではいけないことくらい、分かってる──…


ああ、あの向日葵のような笑顔が恋しい。




∴それでも幸せだったよ


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